白い腕
アンテ


                      19時 @ハト通信

午前中は
洗濯と掃除
お昼を食べたら買い物に行って
庭の雑草抜きをして
宅配業者が夕方に来る

急がなくちゃ
一日は短い

ほんの少しだけ
と自分に言い聞かせる
仰向けに寝そべる
キッチンの床が一番だ
触れる面積が大きくなるよう
両足を投げ出す
背中や腰を床に押しつける
手のひらを下にする

ひんやり
冷たい肌触り
左の耳を板間に押しつけると
いろんな音が聞こえる
通りを大型トラックが走り過ぎる
流しに水滴がしたたる
洗濯機の回転する向きが変わる瞬間の
短い空白

地中深くから
なにかが浮き上がってくる音
ゆっくりと
だれも気づかない速度で

ずいぶん遅かったのね
笑い声

床板を突き破って
白い腕がふたつ生えてくる
わたしのお腹のあたりを抱きすくめて
ふたたび地中へ沈んでいく
わたしの身体が折れ曲がって
ずぶずぶ
ずぶ
視界が歪む
魚眼レンズのように
浮遊感
わたしと
わたしでないものの間の
境界が破れて
体液が流れ出して

ぽっぽう
なにかが突然泣いた

ぽっぽう
あたしを揺さぶる
身体が引っ張り上げられる

ぽっぽう
あれは
振り子時計だ

ぽっぽう
なんてこと
もうこんな時間

ぽっぽう

ひんやり
冷たい肌触り
白い手はどこにもない
いつの間にか
洗濯機が止まっている
ベランダに干さなくちゃ
それから掃除 掃除

急がなくちゃ
一日は短い

頭を上げて
胴を起こして
腕で支えて
足は
なにをすればいいのだろう

お腹を抱きすくめられた感覚が
いつまでも消えない

ぽっぽう
つぶやいてみる
今日は
晴れだろうか



未詩・独白 白い腕 Copyright アンテ 2003-08-18 23:19:42
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