それは母の読むおはなしのように
朝原 凪人
ヒトのあかちゃんはね
うまれてくるときに
りょうてをにぎりしめて
うまれてくるのよ
ぎゅ〜って
それはもう
すごいちからで
それはね
このせかいにうまれてきた
じぶんなかにある
ユメやキボウやカノウセイを
にがさないように
いっしょうけんめいに
つかまえてるからなの
でもね
ヒトは
りょうてをにぎったままでは
いきていけないの
ひとりでたてるようになるために
ベッドのあしをつかんで
ごはんをたべるために
おはしをつかんで
おべんきょうをするために
えんぴつをつかんで
あいするだれかといるために
そのてをつかんで
あしたのために
おかねをつかんで
そうやって
ヒトは
いきていくために
ほかのなにかをつかんで
そのかわり
うまれてきたときに
もっていたものを
ひとつずつおとしていくの
そしていつのまにか
そのてのなかに
さいしょなにかが
あったということさえも
わすれてしまうのね
それはかなしいことなのかしら
わたしにはわからないの
なにかをなくしたかわりに
そのてに
なにがのこっているのか
なくすことがこわくて
なにがのこったのか
ぎゅ〜って
にぎった
そのてのなかを
のぞいてごらんなさい