死の果実
なかがわひろか

果実を齧る
あなたの首筋には
薄紫の線が浮かぶ

私はその首筋に
かぶりつきたい衝動を抑えて
おいしいかいと
あなたに聞く

あなたは
貪り尽くすように
果実を食べる

あなたの口から
果実の汁が少し垂れて
私はついつい
それに見とれてしまう

ねえおいしいのかい
私がもう一度聞くと
あなたは少し垂れた汁を
骨のような手首で拭いながら
こくんと頷く

もう一度だけ
あなたを私の中に戻すことができるのなら
青白い首筋も
薄い唇も
骨のような手も

もっと良い物に
取り替えられるのに

私は

私は

ごめんねという言葉を飲み込んで
あなたをそっと抱く

(「死の果実」)


自由詩 死の果実 Copyright なかがわひろか 2007-05-07 00:28:27縦
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