幾つもの星が流れた朝
板谷みきょう

娘は気付くのが遅かった 医者は手遅れを家族に告げた
その日が長い闘病生活の幕開け
時を置いて たくさんの人 励ましを冗談交じりに笑いながら
付き添った父も母も明るく 笑顔交わしていたが
彼女は日増しに痩せ細り 頬はこけ
歩けなくなり 立てなくなり 寝たきりとなった

天井ばかりを見上げる事を思い 病院はベッドを窓際に移した
命と引き替えの痛み止め 頻繁に打ち続けても
父親は娘に笑顔で これからの話をしていた
それはあり得ないこれからの話なのに 笑いながら
彼女は痛みを訴え続けた
笑いを忘れ 息を引き取る間際まで

彼女が意識を失くした時 父親は彼女の前で初めて泣いた
なりふり構わず大声で叫んだ 娘の名を
駆け付けた人々の誰もが 父親を慰める事は出来なかった
医者は出来る限り尽くし そして かぶりを振った
空ベッドの前で 僕は今 ふと思う 本当に
彼女に病気 知らせなかったのが 幸せだったのかと

残された僅かないのちを 思いの限り生きるのが
幸せかも知れない
彼女が数ケ月見続けた窓に 幾つもの星が流れてく

※ https://www.youtube.com/watch?v=JtW1Eyfcxy4


未詩・独白 幾つもの星が流れた朝 Copyright 板谷みきょう 2007-05-03 12:25:52
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