「 会話を書く。 - 後編。 - 」SATP.Vol.12,
PULL.
五。
舞台がアメリカだと仮定する。
信心深い両親に、
異常なまでに過保護に育てられた彼女は、
いつもとても内気な性格で、
ずっと周りの言いなりになってきた。
この日の午後までは。
この事件がきっかけで、
彼女は変わる。
人生も性格も彼女のすべてが、
彼女の本来の姿に生まれ変わる。
さらに彼女を想像する。
信心深い両親に育てられた彼女の口調は、
どんな口調だろうか?。
彼女の両親の信仰する宗教は何か?。
もしキリスト教だとしたら、
それはカソリックだろうか?。
あるいはプロテスタントだろうか?。
両親の深い、
狂信的なまでの信仰は、
彼女の内面に影響を及ぼしている。
彼女は両親に隠れて男と付き合ったことがある。
彼女は処女か?。
彼女は避妊をするか?。
もっと彼女を想像する。
『可哀相かもしれない「彼女」』
そう書いた。
もし彼女がきみの仲間であったなら?。
しかも計画の首謀者は彼女であったなら?。
だとすれば、
彼女は可哀相だろうか?。
彼女はただ怯えて泣き叫ぶのだろうか?。
彼女はきみを知っている。
当然のことながら、
彼女ときみの会話は、
周りの他の人質達に聞かれることを、
前提としたものとなる。
それはどんな会話だろうか?。
凶悪な銀行強盗と、
怯えている可哀相な女性行員。
それだけの会話でいいのだろうか?。
彼女がきみを裏切ったら?。
他人の顔色ばかりを気にする、
脇役の人生から逃げ出して、
誰かの、
全米の主役に生まれ変わるため、
彼女は勇敢なヒロインにならなければならない。
そして彼女は求め行動する。
凶悪な銀行強盗にひとり立ち向かい、
肩を打たれ、
ひどい怪我を負いながらも、
執念で強盗の銃を奪い。
その銃で凶悪犯を射殺した勇敢な女性銀行員、
ロリー・キャラハン。
そんな彼女は、
銀行強盗のきみと、
どんな会話をするのだろうか?。
六。
きみは彼女の裏切りを知っている。
知っていて彼女のために、
きみは撃たれる。
きみは、
彼女にどう言って銃を突き付け、
金を出せと脅すのだろうか?。
そのことばに死の覚悟は漂っているだろうか?。
彼女はきみが裏切りを知っていることを、
そのことばから感じ取るだろうか?。
感じ取ったとして、
彼女は計画を止めるだろうか?。
七。
彼女は止めない。
もう止められない。
きみもそれを望まない。
きみを撃った後。
彼女は最後に、
きみにどんなことばを言うのだろうか?。
そのことばは、
彼女のこれまでとこれからの人生を、
読者に感じさせるものでなければならない。
そうでなければこれまでの会話の積み重ねや、
キャラクターの造型がすべて無駄になってしまう。
だから会話は常に、
それを口にするキャラクターに寄り添い、
そのキャラクター自身よりもキャラクターに成り切る、
キャラクターの代弁者でなくてはならない。
八。
最後に。
これはへぼ書きが書いたへぼ読みもの。
ここに書いたことは参考にしないでね。
きみはきみの好きなように書いてください。
わたしはそれを読むのがとっても好きです。
了。