「 会話を書く。 - 前編。 - 」SATP.Vol.11,
PULL.







仮説として。


一。



文体もとても難しいが、
会話もとっても難しい。


現実の会話であるような、
儀礼に満ち説明的で回りくどい、
ことばたちの会話は、
詩や小説や漫画、
それにシナリオでは使えない。

そういう会話たちは作者の自尊心を満足させはするが、
読者を楽しませ笑わせ涙を誘い感動させることはない。

では、
どんなことばの会話たちが詩や小説などに向いているのか。
それはそのキャラクターの個々の性格によって違ってくる。

例えば、
会話のはじめに強いことばを持ってくるキャラクターの場合。
それはそのキャラクターの押しの強い性格と深く関わっている。
そうでなければキャラクターの造型が甘いことになる。

その逆の、
いつも遠回しな言い方ばかりで会話の要点がつかみにくく、
感情の起伏が読みづらいキャラクターの場合は…。
これはもう説明しなくても解っていただけると思う。

会話は常に、
それを口にするキャラクターに寄り添い、
そのキャラクター自身よりもキャラクターに成り切る、
キャラクターの代弁者でなくてはならない。






二。



ひとつひとつの会話が終わるごとに強制的に挿入される、
過剰な状況の説明や描写の数々は作者のオナニーである。


『彼は絶望に口をふるわせ、
 まるで禁断の果実を口にするように、
 それを言うのだった。』

このような象皮病的描写を、
会話のアクセントや締めとして挿入するのは、
時として悪くない。
だが、
ひとつひとつの会話が終わるごとに、

『あえぐように、』
『取り憑かれたように、』
『激しく興奮して、』

などと挿入するのは、
自ら創り上げる虚構の虚を暴き、
読者を興ざめさせるだけだと、
きみも思わないだろうか?。


「いいか?。
 おれは本気だ!。
 今すぐお前の首をつかんで、
 この手で絞め殺してやってもいいんだぜ。
 わかったらそのくさい口を閉じて、
 黙ってろ!。
 この口先だけのゲス野郎め!。」

お世辞にもよいとは言えない台詞ではあるが、
この台詞にこれ以上の描写が必要だろうか?。

『ヤツはこの大きな部屋の窓ガラスを震わせるぐらいの大声で、
 激しく怒鳴り散らし、
 ぼくを罵倒した。
 ヤツは本気だ。
 本気でぼくを殺そうとしている!。』

こんな三文描写の羅列は、
ひどい台詞をさらにひどくさせるだけで、
何の劇的効果も揚げてはくれない。
むしろ逆効果だ。

ヤツが「本気」で、
「本気でぼくを殺そうとしている」のは、
ヤツ自身が既に台詞で言っていることであり、
わざわざ繰り返しフォローする必要は、
この「場面」ではない。
(それが必要な「場面」もある。)

「罵倒」も台詞を読めば、
それが一目瞭然である。
「あれはぼくへの罵倒でーす。」と、
いちいち読者に告げ口するのも野暮である。

だけどもし、
あの暴力的な台詞を、
優しく、
耳元で囁くように言ったのなら、
それは描写すべきである。






三。



もしきみが凶悪な銀行強盗の犯人で、
銃を突き付けて銀行員を脅すのなら。
演技するべきは強盗のきみではなく、
きみに銃を突き付けられて脅される、
可哀相かもしれない「彼女」の方だ。


これは先ほど述べたことと、
いささか矛盾する。
ようにも読める。
だが想像してみて欲しい、
銃を突き付け無抵抗な女を脅す男。
もうこれだけである程度のキャラクターの説明は出来ている。
これをさらに「凶暴」だの、
「野獣のよう」だのと描写をするのは、
キャラクターの自立に対する侵害だ。

キャラクタの内面の描写は、
キャラクター自身の発言と行動によって、
成されるべきではないだろうか?。

ストーリーが動くごとに、
どう感じたどう思った。
などといちいち描写しなければ、
キャラクタの内面を説明できないのなら。
それは実際に書く以前のプロットに問題があるか、
キャラクターの造型に深刻な見落としがあるのだろう。


余談になるが、
キャラクターの人間性を過度に美化して、
完璧な人間に見せたいのも、
原因のひとつである。
この場合、
キャラクターは作者の分身であることが多い。






四。



本題の「会話」から離れて、
少し文体に入り込み過ぎた。


会話に戻ろう。
先ほどの例に挙げた、
きみに銃で脅される「彼女」ことだ。
「彼女」は、
この状況にどう反応し、
きみとどう会話するのだろうか?。

丸腰の女の子が、
銀行強盗に銃で脅されたのだから。
きっと恐くて、
頭の中が真っ白になって、
悲鳴を上げて泣いてしまう。

そう考えて、
そう書く人もいるかもしれない。

それでいいのだろうか?。












           続く。



散文(批評随筆小説等) 「 会話を書く。 - 前編。 - 」SATP.Vol.11, Copyright PULL. 2007-04-20 08:21:40
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