認めたくないものだな
一絵

激しい息切れ、痛み始める喉、ぼやけかかりはじめた脳。
自転車(チャリ)で坂を駆け上がる。それは通常の3倍の速さ。
何かにつけ胸がつまる感じがする10代の心。
そんな時は坂を駆け上がる。もう少し、もう少し、まだ上は先。
激しい息切れ、痛み始める喉、ぼやけかかりはじめた脳。
「まじクソヤロー」切れた息を交えて自分にぶつけるクソヤローの怒声!
どうして?こんな筈じゃなかったハズだ!
もう本当ムカツクっす自分。ねえ?なんでなんでなんで?
なんで今こんなとこいるの?
高校入ってから「男子」という生き物と言葉を交わしたことがねえ。
帰ったらとりあえずネットしかすることがねえ。
最近なんだかもう現実世界の人間様に恋ができねえ。
今日も一人でご帰宅?
ねえ、自分よ!あの頃の自分が今の自分を見たらもうそれはそれは
号泣。いやもうゲロさえ吐いちゃう勢いだよ!
「ねえ?彼氏は?え?なんでそんな顔ブサイクなんだよ!何キロ太れば気が済むんだよ!
せめてBカップくらいにはなってるとか思ってたんだけど。え?冗談ですよね?
ん?冗談ですらないの・・本気?マジ?こんな筈じゃなかったぁああああああああああああああああああ」
あああああああああ!畜生。
ハンドルを持つ手に力が入る。ヘッドフォンからは鼓膜が破けそうな程の爆音
突き刺さるギター、体の芯に轟くドラムとベース 発狂するボーカル
何より爆発しそうなマイブレインとふくらはぎの筋肉!
うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
あともう少し。
坂を上りきるのに理由なんて無いし何より理由なんて要らないさ、
と自分をなだめている時だった

「hey ho let's go!」
妖艶な(少なくとも私にはそう聞える)ジョーイラモーンの声がした。 
その音の正体は私のケータイから発せられたモノだと気づく。
忘れていた。そういえば私のケータイの着信音はこの曲だったっけ?
メール受信なんて何週間振りだろーかと思うのと同時に
私の荒れ狂った心のライブハウス(しかもメタル)
はじわじわとクラシックのコンサートホールへと変わり幸福な音色を奏ではじめた。
「もしかして」
もしかして、 そうもしかして。
世の中は分からない。
今いた世界が自分の動きとは勝手に一変することだってある。
もしかしたらですよ?この受信された一通のメール、
「○○さんにメアド聞きました」とか「メールしませんか?」とか
少し眺めの前髪でコンバースを履き潰したギター大好きの男の子からのメール
かもしれないぢゃないか!はてまた知り合うとかの次元を超えて
「実は好きでした」とか「付き合ってください」とか
明日からバラ色の生活?勝ち組?甘え方が分からんからとりあえずにゃんこ
言葉で喋っとけばいいべか?パンツはあえての白がいいべか?
実は大胆でーす☆やっぱ女はギャップ?ロックが好きじゃなくてコブクロ
とコウダクミが好きということにしておこう....
ノン・ストップ止まらない妄想!高まる期待!
親指が強張りながら受信ボックスを開いた


『TSUTAYAマイメール 半額クーポンのお知らせ』

心にあたるストロボそれはすれ違っていく車のライト。
坂の途中。止まってしまった足、絶えず上下する胸、止まらない息、
なんだかやるせないこの気持ち・・・
「恋愛映画ファックだぜ。」
そうやって呟いて今駆け上がった坂道を下った・・
風が気持ちいいな・・
上るのはあんなに難しいのに下るのはこんなに容易い。
とりあえず、ツタヤに行こう。
ツタヤは坂の下にあるのだから・・・・。

ああ、世の中に諸行無常の響きあり。









散文(批評随筆小説等) 認めたくないものだな Copyright 一絵 2007-04-14 00:49:34
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