手遅れな男
服部 剛
ファーストフードのレジに並ぶと
厨房に立つ店員は
神業
(
かみわざ
)
の手つきで
ハンバーガーを さっ と包み
すい〜っと横にすべらせる
「あれじゃあまるで、モノじゃあないか・・・」
と嘆きつつ
帰りの夜道でハンバーガーを幸せそうにほおばった
翌日
老人ホームの入浴介助で
次々と風呂用の車椅子に乗せられて
浴室に運ばれる裸の婆ちゃん達のまあるい背中を
ごし ごし 洗っているうちに
横一列に並んだすべての婆ちゃん達の顔が
芋
(
いも
)
に見えてきた
「これじゃあまるで、芋洗いじゃあないか・・・」
と思いつつ
まあるい背中に泡立つせっけんを
シャワーで流す
認知症の婆ちゃんの着物を
すみやかに脱がせると
「おじさんやめて〜」と叫ばれて
「おじさん」という言葉に苦笑い
休憩時間に更衣室で着替えてうつむくと
いつのまにか 腹が出ていた
その夜、わたしは突如走った
余分な肉を落とすべく
いつも立ち寄るファーストフードをスルーして
「腹よ凹め、腹よ凹め」と念じつつ
バス停からバス停へ
バスに乗り
座席にへたって座ると
リュックのチャックのすきまから
おととい持ち帰り忘れた作業着とパンツが
ぷうん と臭った
未詩・独白
手遅れな男
Copyright
服部 剛
2007-04-12 21:51:53
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