囚人
服部 剛

長い間 
独りの囚人は
牢獄の
冷たい石の床上で 
両腕を垂らし 
立ち尽くしていた 

弱い我が身を守ろうと 
幾人もの人を 
闇の底へ 
蹴落として来た 

背後の窓から 
映写機のように 
日は射して 

鉄格子の外に
手の届かない幸福は 
映し出される 

桜並木の道を 
父と母の間で 
手をつないでスキップする 
女の子 
花吹雪の向こうへ 
姿を消す 

やがて 
牢獄の外の一日も終わり 
ふたたび訪れる 
夜の闇に横たわる 
独りの囚人 
薄い布団に身を包み 
眠りに落ちる 

静寂の彼方から 
この牢獄へと歩いて来る 

誰かの足音 





未詩・独白 囚人 Copyright 服部 剛 2007-04-08 12:34:41
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