男になりきれない、女になりきれない、手紙。【井の頭公園】
西瓜すいか
少し寒いころだった気がする。
どこまでいこうか、
どこにいこうか、
どうやっていこうか、
そんな会話を繰り返していたか、
それとも私はもっと攻撃的に
レイプを、
性を、
相手の処女性を、
話していたのか。
今となってはもう、すべてが褪色して、ぼやけている。
けれどひとつだけ、ひどく汗ばんだ手を覚えている。
大きな手がたとえようもなく汗ばんで、童貞君らしさをかもしだしていた。
「ごめんね。手、汗ひどくて。昔から汗っかきで…」
「いいよ。そんなの。気にしないで。」
(かわいい。)と思っているように「見える」ように、私は応えた。
井の頭公園の道は長かった。
暗いみち。絡む男女。風。砂利を踏む足音。
慣れない男の体温。木の葉ずれの音。
私の精神は必ずうまくやれるという自身と、無垢な男を転がすサディスティックな愉しみに満ちあふれていたが、私の肉体は手をつなぎながら、隣にいる、明らかに自分と違う質量と硬さをもった肉体に怯えていた。
はじめて、腕に触れた。
はじめて、抱きしめられた。
息ができない。指が動かない。
やめて、やめて、やめて。
(いつかは慣れる。いつかは慣れてそのときこそ屈服させてやる。)
やめて、やめて、やめて。
顔を近づけないで、怖いのよ、やめて!
キスをされた。
私は平然としたふり。
もう、戻れないところに来てしまったと、思った。
17歳のとき。まだ自分が女だと知らなかった。
世の中に、男がいることを知らなかった。
処女だった。