やらせろよ 1分
猫のひたい撫でるたま子
―AM6時、人の少ない井の頭線の車内―
ガラの悪そうな細身の男がシルバーの携帯で喋っている。
靴下は赤と青のりんご模様。
茶色の便所サンダルを履き、
黒のパリッとしたスーツ、ハンチングを被っている。
だから〜ロマンチックなんていらねーよ
(優しい口調で)
はいはい、そういうささやかな秘密もいらないんだよ?
全貌を早いとこ耳打ちしてくれよ
わかるか?俺はいまパズルのピースの上に立っているんだ
あんたが完成させてくれ
いっつもそうだオマエは。途中で諦めないでくれ
音楽がうるせーよ、ノイズが混じるから切ってくれ
( 向かいの女をまっすぐに見つめて )
「俺の足元を見るな。」
( 再び携帯の会話に戻る )
何が欲しいかいってくれ
( 懇願するような甘い声で )
ヴィトンだって、ヴィヴィアンだってなんだって買ってやる
俺はあんたと好きなだけやりたいだけなんだ
お〜い 何がしたいか教えてくれよ
(向かいの女に向かって、少し困り顔で)
「なんで俺を見つめてるんだ?」
(携帯に向かって怒りを押し殺した低い声で)
なぁ勝手に、俺の脳味噌をたべるんじゃねえよ