四行未詩日記・二〇〇七年二月、三月
ならぢゅん(矮猫亭)

   つきのひかり・二月二日

ふゆのあさ、にしのそら
しずみゆくまんげつ、りんとしたひかり
まだあけきらぬまちをてらし
ためらうこころをあゆましむ


   春を待つ・二月一七日

かたくなに結ぼれたものがほころび
花びらや笑顔のようなものがこぼれる
そういう季節のきらめきを春と呼ぶなら
春を急く心に春は届かない


   春暁夢譚・三月二〇日

     その一

「水をやろう。俺の持ちものはこの水ばかりだ」
「せっかくだが水なら俺も持っている。そうだ、俺の水をやろう」
そこは清らかな泉のほとり、水だけは豊富だが水しかないのだ
そんな夢を見た。どこかほのぼのとした、しかし確かに悪夢だった

     その二

大切な約束があるのに電車がこない、いくら待っても
いくら待っても――いやそもそも時間が一向に進んでいない
ほっと胸をなでおろすものの安堵してもいいものかどうか
やれやれ、これも悪夢か。いつまでも続く執行猶予のとき


   曲がり角に棲んで・三月二一日

たとえば自転車のベルや時候の挨拶
子どもたちの笑い声、車の警笛、うわさ話
曲がり角に棲んで
出会いを聞きながら暮らしている


   四行すら・三月三〇日

日に日に膨らんでゆく花芽の速さに
四行すらもどかしく
満幹万樹おおいつくす夜桜を仰ぎ
声なく、ただ笑いがこみ上げるばかり


未詩・独白 四行未詩日記・二〇〇七年二月、三月 Copyright ならぢゅん(矮猫亭) 2007-03-30 12:23:56縦
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