「宇宙犬ライカ」序文
佐々宝砂

我々人類の起源については諸説あるが、我々がこの惑星トピアに本来存在する生物でなかったことは、人類にのみDNAが存在することや、トピアの生物群が持つコンドリミトアを人類だけが持たないことなどにより明白である。我々はまさしく霊の長たる霊長類であり、人類の他に霊長類は存在しないのである。

では我々はどのようにしてトピアにやってきたか。代表的な説として、「第二の地球説」「ボイジャー説」「ガガーリン説」「宇宙犬ライカ説」などがある。しかし「第二の地球説」は科学的説とはいえず、宗教的な説であり、「第一の地球」なるものが存在していたという根拠を持たず、我々がどのように「第一の地球」から飛来してきたかの説明もできない。「地球」が我々の祖先が発祥した惑星の名である可能性はあるが、地球を我々の祖の発祥の地であると同時に死後の世界であるともみなす「第二の地球説」は宗教でしかない。「ボイジャー説」は「第二の地球説」よりもやや科学的な説ではあるが、いまだもって我々が乗ってきたはずの宇宙船ボイジャーを発見できないがため、いまだ推測の域を出ない。「ボイジャー説」派が発見した宇宙船らしき遺跡には、ボイジャーという名がどこにも記されていないのである(巻末注1参照)。「ガガーリン説」はくだらないの一言につきる。最初に宇宙に出た人間がたったひとりの男性であったはずがない。男性ひとりでどのように繁殖することができようか。のちに「テレシコワ」なる女性が送り出されたというのが「ガガーリン説」派の主張だが、テレシコワは人間ではなく「ヤーチャイカ」という人類以外の生物だったという文献が存在するため、私は「ガガーリン説」を採らない(巻末注2)。

私が採るのは「宇宙犬ライカ説」である。我々人類の発祥の地の名前はまだ判明しないが、私は「オーストラリア」だと考えている。トピアを「第二のオーストラリア」とする文献は、トピアを「第二の地球」と唱える文献よりも数多く存在し、またそうした文献の中で、我々は「宇宙犬」と比喩されたり、「宇宙犬」と比較されたりしていることが多い。そしてそうした文献は、「ガガーリン説」「ボイジャー説」が証拠とする文献に較べ、より古いものなのである(巻末注3)。我々はおそらく、「オーストラリア」から「宇宙犬」として、あるいは「宇宙犬」のようにこのトピアに送られたのだ。

では「宇宙犬」とはなんなのであろうか。ストラウドによれば、宇宙犬とは宇宙に送り出された犬のことであり、ライカとはガガーリンよりも先に宇宙に送り出された女性の名という(巻末注4)。私は、宇宙犬ライカがライカという名の女性であったという説には賛同するが、充分な食料と酸素と冷凍精子を携えてトピアに降り立ったというストラウド説には頷けない。私はライカの食料と酸素は決して充分なものではなかったと考える。ライカは、自分の食料や酸素が充分でないことや、自分の播種が失敗する可能性を知っていたため、毒薬をも携えていたという文献がある(巻末注5)。ライカがトピアに到るまでの道のりは、非常に長く苦しいものであったろう。

「宇宙犬ライカ説」を否定する学者は、ライカが人間ではなく「宇宙犬」という人類以外の生物であったと主張する。しかし私はライカが人間でなかったとは考えない。我々の言語には「犬」という言葉が確かに存在するが、それは特定の生き物を指すものではなく、主に奴隷的な立場の人間や、卑屈な人間に対する蔑称として用いられる。おそらくライカは、何らかの原因で蔑視される女性であったのだ。

このことから、私は、我々の祖先がおそらく追放奴隷ないし犯罪者であったと推測する。犯罪者を宇宙船に乗せて追放するという刑罰が、かつてオーストラリアに存在したのであり、我々の祖ライカも犯罪者の一人であり、それゆえ「犬」という蔑称で呼ばれたのであろう。あるいは、ライカは追放奴隷の最初の一人であったのかもしれない。

この説を嫌う人は誠に多い。しかし我々の祖がたとえ「犬」であったとしても、それは、我々人類が卑しいものであるということにはならない。ライカは故郷「オーストラリア」をひとり出立し(それが犯罪に対する刑罰としてなされたものであるとしても)、ひとり新たな惑星に降り立ち、我々人類の祖となったのである。たとえ犯罪者であろうとも追放奴隷であろうとも、ライカの功績はたたえられるべきだ。「宇宙犬ライカ説」を否定することは、我々の母たるライカの存在を否定することであり、かえって冒涜的ではないかと私は考えるのである。

なお、この書物が、K・マッキントッシュ氏の協力により生まれたものであることを明記しておきたい。マッキントッシュ氏に感謝を。


自由詩 「宇宙犬ライカ」序文 Copyright 佐々宝砂 2004-04-25 00:55:35
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