「 透明人間 」
服部 剛
「 生れ落ちた その日から
へんちくりんなこのかおで
わたしはわたしを演ってきた 」
という詩を老人ホームで朗読したら
輪になった、お年寄りの顔がほころんだ。
その夜11Cutに立ち寄って
ばっさ ばっさ と髪を切り
床に落ちた髪に敷きつめられ
眼下が波打つ黒い海になるにつれ
プロの手つきで鋏を光らせる
お洒落で爽やかなカリスマ美容師の兄ちゃんに
ばっさ ばっさ と
鏡に映る疲れた顔の「わたし自身」を
切り落としてもらいたく
なってくる
日々の仕事にずっこけて
惚れた女にゃ逃げられて
気がつきゃいつも
「 八 」の字眉毛
あわれな自分を
ばっさ ばっさ と切り落とし
わたしのこころのかんじんなところのみを
残してほしいと願いつつ・・・
・・・眠りに落ちたスクリーンに
雪の並木道をきれいな女と歩いてる
ぺ・よんじゅん
に生まれ変わった夢を見る
「 お客さん、終わりましたよ。」
爽やかなカリスマ美容師の兄ちゃんの声に
目を覚まして鏡を見ると
そこには誰も、いなかった。
* 1連目は晴佐久昌英詩集「 だいじょうぶだよ 」の
「 そのまま このまま 」を参考に書きました。
* 11Cut・・・早くてうまい、美容院のチェーン店