右手を引いて、私を其処に連れて行って
くろねこ。
そこで目が覚めた
闇に溶けた室内で、ありもしない天井をただじっと見つめる
何も覚えていない
そのかわり、汗に濡れそぼった自分と酷い喉の渇きを感じる
どこからが現実で、どこからが夢なのか
手を伸ばす
現実には存在せず、夢には存在する貴方を求めて
私の隣で寝息を立てて
悪夢に追われた私をいつも抱き締めてくれた
そんな貴方の存在も、今ではもう遠い幻
不自然に宙に浮く右手
ぬくもりに触れられないその右手は
小さな安堵と深い絶望をもたらした
いるはずがない
貴方はもう此処にいるはずがない
深く深くそう胸に刻み込んだあの日々は嘘じゃない
どうして連れて行ってくれなかった?
どうしてまだ迎えに来てくれない?
貴方の唇が「あいしてる」と
最期に動いたように見えたのは 私の勘違いですか?
涙の味と
繰り返し繰り返し問いかけたこの言葉は嘘じゃないから
そっと目を閉じた
不意に感じる、ちいさなぬくもり
ああやっと、むかえにきてくれたんだね