連詩 「 知覚 」 よもやま野原・竹中えん・なき・夏嶋真子/夏嶋 真子
夏嶋 真子さんのコメント
読んでくださったみなさんありがとうございます。
*感想を追記しました*


2010/8/6〜9/22
ツイッター上で4人のメンバーによる連詩を試みました。
前述の一行から連想したことを一行で紡ぐという形でリレーし
5行×12連全60行の一遍の詩として作品を完成させました。



*---2010/09/28 08:59追記---*
ツイッターという携帯できるツールを使って一ヶ月半の間、
連詩に携わっているうちに、この詩がすっかり日常になっていることに気がつきました。
新しく生まれた一行を確認することから朝がはじまり、
その詩片が日常の中でいつも頭の片隅にあり
少しずつイメージがふくらんでいく、そうして割れそうになった風船のような想いを
30文字程度の一行にゆっくり息を吐くようにこめて書く。
そうかと思えば、前の一行に一瞬でひらめいて一気に書き上げたものに、
次のメンバーがどんな展開を与えてくれるのか心待ちにする。
詩が完成したことは嬉しいのですが、そんな時間が終わってしまったことが
今はとても寂しく感じています。

メンバーの持つ美意識、柔軟な展開、独創性、それぞれの個性に
人の作品としてではなく、自分の作品として触れるのは
イメージを表現に結ぶとは何なのか、他者の中で自分は何者なのか、
詩とはなんなのか、
ひとりでは絶対に気づき得なかったことに、
意識を向けるきっかけになりました。

わたしは、かなり遅筆な方でしたから(苦笑)
最後までお付き合いくださったメンバーに心から感謝を。

ツイッターはいつでも携帯できる手軽さはありますが、
断片的な表現しかできませんし、時系列が逆ですから
作品として完成させたものを発表できる場所が必ず必要です。
いつもとは違った意味で現代詩フォーラムの可能性と存在意義を
考えさせられました。
また、何か企画してやってみたいと思います。
面白そうだなと思われた方がもしいらっしゃいましたら、ぜひ。


みなさん、本当にありがとう。





以下、それぞれが担当した行数
よもやま野原(1,5,9,13,17,21,25,29,33,37,41,45,49,53,57 and title)
竹中えん(2,6,10,14,18,22,26,30,34,38,42,46,50,54,58)
なき(3,7,11,15,19,23,27,31,35,39,43,47,51,55,59)
夏嶋真子(4,8,12,16,20,24,28,32,36,40,44,48,52,56,60)




知覚(行数付記)

1ほろほろとくずれはしない鍵の化石があなたのからだをひらいています
2記憶は銀河のように 白い、黒い乳房のあわいをすり抜ける
3あたたかな指先であなたの軌跡に限りなく薄い爪痕をつけたい
4のびてゆくラインはゆるやかに地平線を絡め捕り虫籠を編む
5夕日色したあなたの脱け殻をとどめて背中の裂け目に触れようとしていた


6空蝉は、天使の季節に生る林檎だろうか
7光に透ける乾いた体は過去の幸福をくり返す
8レコードの回転数を指紋の磨耗する速度に重ね
9空耳の薄膜にくるまれてしまえば
10わたしはわたしのマリアを捜してしまう



11憶測の言葉に縛られた祈りを纏い窓硝子を蹴破って
12奔放な空へ翔び立てば青と青の反転 尾びれの生えた爪先が波に翻る
13空と海と宙の境をしなる身体ひとつで射ちたい
14星を受胎する少女らの眸は、まだ蕾のまま
15白い毛糸で編まれた貝殻をポケットにしのばせる


16結び目を解けば幾億の雨の順列に細胞は萌芽し
17双葉が囁くように震わせる睫毛の先に架かった光の梯子
18それは、瞼のうちで裏返ってゆく月光に似て
19草の根の這う体で空へ空へと手をのばす
20銀の海を湛えた浜昼顔は点在する世界を連ね双曲線を描き咲いた


21てのひらのまるみを重ねてそのなかで船を育てよう
22地球儀のうえを爽快に漕ぎゆくふたり
23つややかな飛沫はとびうおとなり鱗は光る虹になり
24虹彩の中でなんどでもあたらしく出会うきみ そのたびに名づける
25こぽこぽと湧き出る入れ子の世界の中心はきみの返事で時がねばつく



26次々と死のひらく、枯れ野を火が舐めるゆうべ
27踊りましょう、歌いましょう 熱く輝く花から生まれ出づる命に焦がれ
28散り散りと燃えるノートはやがて正しいことだらけの教科書を焼く
29走り書きした「こわい」の文字が脈打ちながら燃えている
30匿された病と、灰かぶりへの遠い輪生



31遠い遠い昔にあなたが育んでくれた枕もとの小さな小さな物語
32Age 1・3・13・17・29 それは繰り返される 紋白蝶のゆらぎを真似て
33身体中の円に回帰する たとえばその泣きぼくろ、胸の膨らみ、口の開きに
34崩落した廃墟の螺旋階段よ、わたしはおまえを見たくない
35目を閉じて胸の前で手を組んで壊れた星の中心でおやすみのキスを待っている


 
36最果ての図書館ではこの瞬間が記述され決して失われない法則になる
37「えいえんを見たいから眼鏡は好きなページに捨てていきます」
38不可視の運動を(祈り/渇き)と名付けなさい
39乳白色の記録の中でみつけた時の欠片 繋ぎ合わせる断片の一瞬 それが私
40其々の断片に棲む各々の私は円へ近づき ∞の/無の独楽は青く発火する


 
41見えないもののなかでポルターガイストみたいな私の炎が点滅している
42午前4時の信号(私たちは/、全ての生命は/異質でしかなかった)
43赤青黄色、緑桃色 魂はくっきりと光を放ち滑って行く薄闇色を
44掬ってだれかの呼吸音に混ぜる(ひゅうひゅう/だれか/、救って)
45外気と擦れた唇は静電気を帯びて固まり 口内で膨らむ気の抜けた白い空を仰ぐ

 
46星状六花はやさしさを携える(。永久にきみとした)い、)のちの)あふれるほうへ)
47透明なナイフは今すぐあなたに刺さる「やさしいやさしい「つめたい…」あなた」
48震えるフォノンのパズルは 遠い意識の底でゲルダを求める
49指でカシャンとはじく歯車 動いたきみを五感のうねりで飲み込んだまま
50口のなかで息づく少女の唄う恋/風/花になりたかった、わたし


51重ねた両手に落ちた涙に目覚めた心 温もりの風に身をゆだね
52やわらかな闇を包む皮膚が一つの林檎を愛撫する
53湖の栓を抜くような、共鳴に晒されている 愛の果てから索漠の果てまでが
54湖底に春を敷いた
55息吹は湖を押し上げる



56結末につづきを書き込み月光をはさんで閉じる水辺の詩集
57寂として声なく満ちる詩集から言葉は闇を抜き取り眠る
58木菟の静かに眠る箱のなかの無花果に書くやさしいみらい
59満月の光が伸びる湖に指先を置きやさしく揺らす
60孵化をする月のかけらに刻まれた詩をならべる朝の子ども