海に還った祖母に捧ぐ /服部 剛
小川 葉さんのコメント
 
ばっぱが死んだよ
連絡がはいって
いくつかの列車を乗り継いで
たどりついた実家の居間のテーブルに
イクラの寿司があった

食べていい?
誰もこたえないので勝手に食べた
掌もあわせないで
いつもみたいに
ばっぱが生きていて
いちばん奥の部屋からのそのそと
いつもやってきて

やってくるに
ちがいないのにやってこない
そこではじめて
ばっぱが死んだことを
にわかに
信じはじめていた

思い出といえばあの日
今日とおなじようにテーブルにあった
イクラの寿司がおいしかったこと
この人生でいちばん
のそのそと
奥の部屋からやってきたならば
二貫あるうちの一貫を
ばっぱ、おいしいよ、たべれ、と言って
あなたに与えたかったんだよ、ばっぱ

それなのに
どうして今日が
たまたま今日が
あらかじめ今日が
今日だったのだろう
ということなのかもしれないけれど

それにしても、ばっぱ
あのテーブルに残っていた
イクラの寿司を
ふたりして食べたかったんだよ

あなたに与えたかったんだよ、ばっぱ
あなたが僕に、与えてくれたように