沈黙翻訳家/後期
菊西 夕座さんのコメント
後期さんの作品は、いつもながら、あまりにグイグイ読ませるものですから、いつもどこかしら、トリックがあるのではないかと不信になってしまう部分も正直あるのですが、そうした不信感を次々となぎたおしてくれるだけの襖倒し的な快活さがあるのだと思います。後期さんの作品を読んでいると、世界はこう区切るべきだという自らがたてた狭い認識の襖が倒れて、思いもしない空間が広がってゆく愉快さがあります。

今回はそもそも、沈黙に耳をすませるだけでなく、録音機まで用意するという力の入れようですから、いくら沈黙が「何も言わないこと」に限定されているとはいえ、なんとなく違和感を覚えてしまうところ、つまり、沈黙(音がしないこと)を聞き取ろうということ自体ナンセンスなのですが、「沈黙の密度を読む」とか「「私が見るのは、音だけだ」といったいった具合に沈黙を聞くものでなく「読むもの」「見るもの」として捉えている点に、面白さがあり、その設定をしっかりコントロール(把握)された上で「沈黙は、沈黙ではなかった」という逆転(襖返し)を立証していく筋立てに巧みさを感じる次第です。
---2026/03/07 04:38追記---