父の死と私/伊藤透雪洗貝新さんのコメント
やさしい思い出が残っただけでもいいじゃないですか。
院内をちょろちょろ動き廻り、叱ったら、帰れ!と義理の甥の前で罵られた。
話したのはそれが最後で、それからは母親を病院へ連れて行き、わたしは近くの海辺で時間をつぶしていた。
臨終のときには眠気から看護師に促されるまで、気づかなかった。
それでも耳元でありがとう。と囁いたらオヤジの目蓋から涙が零れおちていた。
母親の臨終の際には誰も傍に居なかった。
呼ばれて駆けつけてみれば安らかな表情で眼を閉じていた。
意思とは関係もなく通夜の会場では嗚咽が止まらなくて、
廻りからは幼児のように思われたのだろう。事実子供でしかないのだ。
死とはその故人のためにあるのではなく、
残された人間のためにあるのだ。と、あらためて知った。