詩をめぐる診断/菊西 夕座洗貝新さんのコメント
一行ごとに改行された文節。
これが個性もなくまったくぶっきらぼうに語られていくのにはそれなりの理由もあるのでしょうね。
と、医師は感じました。そう、医師である私はいちいち患者のこころの中にまで踏み込みはしません。
患者が痛い苦しいというその発言だけを聞き取り病理学的に診断していくだけです。
私は内科医です。精神疾患性の患者まで面倒見切れません。専門外です。冷たいと言われようとあっかんべぇをされようとかまいません。
患者さんはただのお客様です。
こんなことを言う私の街にもあなたがおっしゃるような廃業した造園業花屋さんの建物があって、ああ放置されたままの植物たちが、生い茂る草花とともに淋しそうに置かれてあるのを目にしますよ。
立ち枯れて萎れて痩せ細るその姿。
お労しや、まるで年老いて塞ぎ込む老詩人の様子ではないかと。
あ、ちょっと待ってください。
女房が花を買って戻って来ました。
~薔薇はいいわね。あなたのようにいちいち理屈を付けて解説しなくてもそれだけで美しいから~
女房は不機嫌そうな顔をして後部座席に薔薇の花束をそっと置きました。
わたしは医師ではありません。
ただの植物です。以前あなたの庭を埋め尽くした水仙の種です。
覚えていますよ。あなたはわたしのことを詩に書いてくださった。
もう種も姿も見えませんが、
詩に書いて残してくださった。そのことを。
※
花に植物たちに送る畏敬の念が込められていて、このようなぶっきらぼうな語り置きになったのでしょう。 敬具