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耳鳴りのような白日が暮れ
まだしも今夜は
築地渡りの湿った風が吹く
朝からの汗で油染んだような
背中の生地のこわばりが不愉快で
ストッキングは梅雨明けから
本当はスカートも履きたくない
....
たくさんの傷が同時に治りかけ
あちこちがみじめにむずがゆい
降る花のなかの
在る言葉 無い言葉
蛇の肌
猫の首
落ちつきのない
みどり みどり
三つの角 ....
あなたの為に書きました
読んで欲しくて書きました
あなたの為に書きました
聞いて欲しくて書きました
あなたが故に書きました
ひとこと言わずにいられずに
あなたの為に書きまし ....
{引用=恋人へ}
あじさいの
ような淡い青の水彩
ゆめをみていたのは僕だけ
慣れない万年筆のインクが
しろい便箋に滲んだ
あの日付は遠い
風はよく吹き
小道はかすかな日 ....
{引用=
どこにもいかない、はなれない、といった、皿のうえで
ソーダのゼリーがゆれていて、わたしはなんだかかなし
くなって、すこしだけ涙をながした、冷たくて堅そうに
光っているスプ ....
雨を押すと出る
水彩の
青空
夕方の
爬虫類の
羽
波に奪られた
光に奪られた
警告
白墨
白の絵の具
何も描けずに打ち寄せる
....
{引用=
少女はあしあとをのこさなかった、水はけのわるい雨にゆるんだ
校庭をあるくときも、また、うすく雪のつもった歩道のうえをあ
るくときにも、わたしは彼女に聞いてみたことがある、それって
....
透明な祭壇の上で
君は羽化する
私はただ見あげ見つめるだけ
君は羽化をくりかえす
私はただ見つめつづけるだけ
君はそのたびごとにちがう羽をひろげて
雨の羽
砂の羽
....
さかんに水が降りますね
明日に蓋でもするように
おびただしく注いでおります
地面の下はどうなっているだろう
私はこんな時決まって
泥濘に埋もれた兵士の白骨を連想します
それから恐竜の化 ....
読みつかれて ふと
雨音に包まれて
物思いに耽る蛙と
草むらに潜む
文庫の中は
土砂降りの文字
連なり意味成し物語り
意識下に滲み濾過されて
何を読みたいわけでもなく
....
あの人は風だった
緑の髪をなびかせ瞳の奥に、あれは
夜明けの光をたたえて 水のようにやわらかい
あの人は風だった
わたしを見つめて笑う 流れる雲を空を映して
あの人は草だった
やさ ....
ここはどこでもない場所だから 方角もなければ外部もない 僕らは役目を終えて散った花びらのように自由さ だから国家に歯向かう必要もなければ 国家に従属する必要もない 革命も運動もインテリ気取りも大統領に ....
月のといき
天の川の星のながれに
指をふれる
星のしじまのつめたさに
寂しさを 手づかみする
そんな夜には、
なぐさめの亡霊が やってくる
小さなベッドにすべりこんで
私の ....
白煙の層が内側からゆるんでとけて 希薄な円筒をえがきだすと 円い暖簾状の幕がたれ そのむこうに藁で葺いた一軒のふるびた家屋がうつむいてかしこまっているのがみえる
まねかれるように胸元からたお ....
ロンサム・ジョージ、ロンサム・ジョージ
溜め息みたいにふっ と死んだ
ロンサム・ジョージのニュースを知って
何億人かの人間が
溜め息吐いたことだろう
お前は何の為に生きたのだろうね
手当た ....
ぽつりと、世界に取り残されたおれは
静かに目を瞑って世界をつくった
隣には無愛想なきみが、珍しく饒舌で
あア、こんなとききみが隣にいてくれたならおれは
今夜は随分と筋張った月が ....
羽化するものを
手渡されたことがありますか
「これ、今日の午前中ね」
生物部の男の子がくれた一本の小枝には
冷蔵庫から出したてのサナギキアゲハ
「羽化する瞬間は見たことがない」
い ....
刈り入れ後の田圃
夕暮れ時に老婆一人
誰かを呼んでいる。
腰は幾分曲り膝に手を当てて
前を向き誰かを呼んでいる
視線の先には白い犬が一匹
老婆に向かって息せき切って走っている
懸命に走っ ....
ぼくには夢がない
あえて挙げるならそれは
浮標
見ろ、
エルベの蛍
を、
{ルビ城=ブルク}も{ルビ森=バルト}も遥かかなたにして
ダンケルクの沖に漂っている ....
裸足で
知らぬまに 遠くまできていた
虹色の汽車にのって帰ろうと想う
歩んだそこには、
軌道がしっかりのこっている
帰りは 来るときほどの苦労がないね
そんな声がする
ただ、さびしいあき ....
日照りつづけば苗が枯れ
長雨つづけば根が腐れ
海がさらえば塩害の
汚染鳴かすな馬子痩せ
棄民の身のうえ口惜しいと
べこの親父がくび吊れば
だれが都会で困るでなし
ダイヤの運行障るでなし
....
五月、
鞄のなかで
ぼくは死んでいた
たくさんの緑に包まれ
豊かに死んでいた
柔らかな乳房の
香りだけ憶えていた
春が来るたびに
色が褪せて行った
女はテーブルに きいちのぬりえ を開き
サクラクレパスで塗って行く
夏が来るたびに
心が剥がれて行った
何ひとつ帰り来ぬ家の 何ひとつ得られぬ部屋で
....
向き合った途端、一瞬たじろいでしまった
あまりにも真っ直ぐに見つめられて
ファインダー越しに覗いた
淡いピンクの大輪
千重咲きの奥に守られている花芯は
何か語りた気に
唇をうすくほ ....
「「 牛丼の並、コールスロー付で・・・
「「 はい、A定 一つはいります
時はしらずに 十四年をかさね
昔とすこしも変わらぬ オレンジの看板
丸いスツールにすわり
空 ....
俺は莫迦話をしたい
とても大変な時期に莫迦話をしたい
とにかく莫迦話をしたい
切迫感の中で莫迦話をしたい
どんなに偉そうなことを言っても自分のことしか話せない人と莫迦話をしたい
他人のこ ....
おまんま喰わせてあげると
嘘吐いて 漸く手に入れた
幸せの砂
砂の重みは一人分
風に吹かれてさらさらさらさら
綺麗なべべ着せてあげると
嘘吐いて 漸く手に入れた
幸せの砂
....
舌を切られた者はともかく
一度口に放り込まれたら
二度とキャンディーの味は忘れられない
どんな果実よりそれは甘く
どんな甘味より刺激が強く
思うだに唾液が溢れ
食べ続けても満腹感は決して来 ....
雨を眺めて、雨が愛を一つ残らず殺していくのを眺めて、ふと人差し指の甲で鼻先に触れる、そんな行為にも法律の空間が潜在しているのです、鳥の声が縛られて記憶に焼きつく、そのまま水となり体内をめぐる、そんな巡 ....
舗道に照りかえす低い陽にむかって
かわいた空気のなかを僕たちは
舗道に暮らす人には気をとめずに
西陽に目をほそめて歩く
大通りのむこう側からとぎれとぎれに届く
コーラスが見知らぬ誰かを祝 ....
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