人工湖に仕立てられた
用水池から漏れだしている
名前だけは一人前の川がある
堤防にそよぎはあるものの
せせらぎはない
はぜのかげもない
それでも むかしのおらのよう ....
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ホームに止まった電車の窓越しに見える
同じく所在なく立つ隣人を想う
二本の平行した線路上に交わる事なく
二人は未来永劫交差することは無い ....
目の前の人は
下ばかり向いている
私は
伸びすぎた爪をいじったり
髪を触ったり
挙句のはてに
することがなくなって
ほろっと涙をこぼしたり
していたけど
目の前の人は
下を ....
逃げ場をなくした熱気が
重く澱んでいる夜の底で
線香花火に火をつけると
涼やかな光の飛沫が
覚めやらぬ地面にほとばしる
しつこく素肌に絡みつく
湿り気を含んだ風の端に
弾き出され ....
夏のお空は賑やか
雲の鯨が群なして
北さしゆっくり泳いでく
夕べ摘まれた胡瓜はポリエチレンの中
萎れた黄色の花を畳んで重い体をしんなりと
むらさきの影踊る無人販売所
朝の優しい静け ....
「18歳未満立入禁止」
のボタンを押して、そっと扉に入る
大人は誰一人いない
大人が若返っているのか
大人などはじめから入ってこないのか
大人などはじめから"いなかった" ....
荒野にときどき吹く風がある
代わりを求めても仕方がないのに
荒野にありもしない花を探している
荒野にときどき吹く風がある
お花屋さんの冷蔵庫の匂いがする
さわやかな湿った ....
空がたかい
空がふかい
空がたかい
空がふかい
ぽつんと宇宙基地に立つ
空がたかい
空がふかい
ぽつんと一人立っていた
空がたかい
空がふかい
空がたかい
空がふかい
「どこにいる?」
誰のしわざだろう
(どこにいる?)
有限のたましい
絶対音感の人の指先が
たくさんのたましいの呻りで
にごってゆく
そのとわの中で
その
と ....
一輪のすみれを
花のところだけ切り落とす
いとしい{ルビ女=ひと}よ
きみの優しさが
どこまでも悔しかったからです
誰かに手紙を差し出したい
秘めた恋心を
白い便箋の罫線の間にそっと忍ばせて
誰かに手紙を差し出したい
今朝咲いた朝顔の欠伸が
黒いインクの文字から聴こえてくるように
誰かに手紙を差 ....
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傷つく想いと傷つける想い
どちらが重くて痛い?
独り帰って涙を流がす時
わたしは誰かを傷つけている
だから ....
たいせつなひとが死んだ
死ぬのは
だれだってあたりきなのに
こんなに悲しみで
ざわついているのはなぜ
死がふしぎなわけでもないのに
別れることは
だれだってあ ....
朝七時半くらいになると淋しい
それはクセのようなものだ
夜八時くらいになると淋しい
ツメを噛もうとおもっても
噛めるところがないよ
だからツメのおもてを
したの前歯で研いでいるよ
朝 ....
電車がトンネルに入ると
車窓が黒い鏡になってしまった
深海の底をたどるように
てのひらをあたためる
ぼくは世界を見つめている
こころの闇なんか信じていない
ぼく ....
それはあなたですか
{引用= いいえ、それは麦藁帽です
それはかぶることができます
それは夏の人々に好まれています
いいえ、それはすみれです
....
わたしは
自慰をして
足らずに
よくしらない男を
呼び出して
抱かれる
さいきんのモーテルは
清潔であかるいし
窓だってある
そうして
そこを出た足で
花を買いに ....
かあさんのあいしてるは
おつきさまみたい
やさしくつつんでくれるから
こんやもぐっすり
とうさんのあいしてるは
とうさんのせなかみたい
しんぶん ....
{引用=
ぼくがぬぐえたはずのなみだで
かみさまのいちびょうをかう
どうせ
あなたはむげんのときがあるのだから
ぼくがぬぐえたはずのなみだをぜんぶ
さしだすかわりに
かみ ....
雨は
縦からやってくるのに
雨のにおいは
横からやってくる
ボブ・ディランが
教えてくれた
「Blowin' in the wind」
その答えは
風に吹かれているだろう
雨 ....
その箱のなかには夢が溢れていた
幌馬車に乗っていたり
早馬にまたがり二挺拳銃は火を噴いて
またあるときは電話ボックスから秘密基地へと飛び込めば
誰もが海の向こうの豊かさに憧れた
....
汗だくのからだを冷やしながら
なんだか陶然となっていた
想いの振り子がぐわんぐわんいっている
いつでも泣けそうだ
いくらでも泣けそうだ
目をつむり
咳込むように名を呼べば
いつでも泣け ....
人形を捨てようとしている人に出会った
少し古めかしいフランス人形だけど
愛くるしい表情をしていた
捨てるのなら 私にください
と お願いしたら
いえ 収集車に放り込まれるま ....
歌ってはいけないことは
ひとつもなかった
嬉しければ笑えばいい
悲しければ机に突っ伏し
歌ってはいけないことは
どこにもなかった
愛しければ ....
月の光に飽きてしまい
深く眠りにつくと
君が
僕の手を切断し
それを使って一篇の詩を書いた
朝、
それは元通りに
手首にくっついている ....
望んでない炎
炎に{ルビ塗=まみ}れた稲わらが強引に{ルビ傾=かし}げる
カーテン越しから囁く者たちは
そこから離れなさいと
ただ 唇を動かす
ありえない色
塗り替えられた あの土地 ....
働いて
働いて
四角い紙と
円い金属
立ちっぱなし
犬が過ぎる
犬が嗤う
中也の
失くした椅子
生きっぱなし
....
八月
隙間のない日差しが街を埋めつくして息をとめた地上
の生きものたちは白い化石になるだろうか
昼下がりの昆虫のように日差しを避けて地下に逃れた
人びとの背にうっすら
あの日の地核の影が ....
他にやり方はあったはずなのに
言葉でもよかったのに
きみは{ルビ擁=いだ}くことを選んだ
他に道はあったはずなのに
きみの肩ごしに
山並みは夕日に ....
きみのうしろに
きみが見える
脱ぎ捨てたシャツのようにさりげなく
きみのうしろに
きみの母や父が見える
ひっそりとしたブランコや
いくつもの ....
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