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橙色に照らされた木造二階建てのアパート
蹴飛ばせば簡単に壊れてしまいそうな垣根から
紅色の白粉花がその艶やかな顔を出す
やがて来る闇に飲み込まれてしまう前に
黒くて固い種子をてのひらに ....
あんなに耳障りだった蝉の声も
虫眼鏡で集めたみたいな痛い陽射しも
まるで色あせ始めた遠い物語
なだらかな坂道を自転車でおりると
向かい風がほんのわずかの後れ毛を揺らす
時折小石が顔を ....
届かないと思っていた扉の取っ手は
いつの間にか腰の位置になっていた
背が伸びて視野が広がる
遮っていたものに追いつき追い越し
世界の大きさに少しずつゆびが触れる
もうすっかり ....
夏の空が広く見えるのは
余計なものが流されているからだろう
小学生の頃の一番の友だちは
国語の教科書と学級文庫と図書室の空気
頁をめくったときの薄っぺらい音と
綺麗に並ぶ印刷の文字が ....
空で迎える最初の誕生日に
どんな言葉を送ろうか
どういうわけかわたしの周りには
夏が好きな人が多くて
きみもその中の一人で
暑いのが苦手なわたしには
何度夏の良さを説かれても
賛 ....
わたしが生まれるよりうんと昔に
他界してしまった母方の祖父は
実直で陽気なひとだったと言う
わたしが高校の制服に袖を通して間もなく
他界してしまった母方の祖母は
大変に気の強いひとだ ....
愛よ
おまえは道端の石ころみたいに
でしゃばりもせず佇んでいる
それは
太陽の光をたくさん吸い込んだ布団
使い古して先の曲がった万年筆
おどけた瞳を持った豚の貯金箱
....
恋人同士で祇園祭に行くと破局するんだって
昔からそんな噂がまことしやかに流れていた
きみからの誘いを断らなかったのは
おろしたての浴衣に袖を通したかった気持ち半分
別れたらそこまでの縁 ....
少しだけ冷たいシャワーを浴びて
乾燥したタオルで頭を拭く
拭いきれない残り水はしずくになり
首筋を伝い背骨を沿って落下してゆく
つつ、つう、つう
風ひとつないこんな夜には
....
きれいに舗装されていない夜道は
鳥目のわたしには危なっかしく
雨上がりであることも重なって
慣れた道なのにつまづいてしまう
自動販売機にコインを入れ
ミネラルウォーターのボタンを押す ....
抱えきれないほどに大きくなりたかった
青々としたたくさんの細長い波が視界を埋め尽くし
何処まで続いてるのかなんて見当も付かない
涼しい風が吹く頃には黄色く重い稲穂が頭を垂れ
やがて精米 ....
庭先に止まったアゲハチョウの羽には
感情の全てが閉じ込められている
そのざらざらとした声色が気持ちよくて
いつまでも肌をなぞっていてほしかった
淡い空にうろこ雲がほわりと浮かび
右目の向 ....
明後日の今頃には
きっとわたし、泣いてる
ハナキンなんて言葉が流行ったっけ
週末の空気はほこりっぽくて
ろ過された部分だけを吸い込もうと
口を無意識にぱくぱくとさせる
大嫌いなもの ....
暑さにうなだれている名も知らない花は
剥がれかけたマニキュアと同じ色をしていた
使われているひとつひとつの配色が
くっきりとしたものばかりなのは何故だろう
まぜこぜしないのがこの季節で
....
なぁ、オカア
子どもの頃から口癖みたいに
女の子はこれくらいできなあかん言うて
台所に立たせてたやろ
うちはあれがすごい嫌いで
何だかんだと理由をつけては逃げ出して
そういえばお弁当一 ....
浮いた光は気まぐれに運ばれているのか
それとも決まった順路を漂っているのか
ただ、示されたとおりに視線を動かす
乾きから守ろうとする瞳は水の膜を張り
鮮明だったはずのものがぼんやりにじむ
....
忘れかけている遠い記憶のあの子
白いワンピースがお気に入りだった
生まれつき色素が薄かったようで
肌は陶器のようにつるりと白く
髪は太陽に透けるような茶色だった
大人は口をそろえて
....
大切かどうかわからない記憶は
抱えていた膝小僧のかさぶたにある
転んだのは最近のことだったか
それとも遠い過去のことか
鉄さびのようなすすけた色は
かつて赤い液体であっただろうことを
....
遠くばかりを探していたら
いつの間にか目の前に立っていた
思わず向けてしまった人差し指
音楽の授業でピアノのテスト
弾けないわたしは放課後まで練習
ミの位置にはいつも中指
教えてく ....
わざわざ好んで痛みを求める必要などない
足場の悪い苦境を選ぶ必要もない
水面に浮かぶ蓮の花みたいに白々と
空っぽの美しさを知ることのほうが重要だ
ぽかんと丸い広がる空の誕生日が
ぼくと一 ....
おさなごの手で目隠しされたみたいに
まだ薄白くぼんやりとした月は
うろこ雲のすき間から顔を少しだけ見せる
指で四角に切り取って覗き込んでみた
ぼくたちよりうんと長く生きたこの風景は
瑞々 ....
あんさん、覚えておきなはれ
京都のおんな、みんながみんな
はんなりしてるおもたらあきません
御着物似合うおもたらあきません
夜の先斗町はえらいにぎやか
酔っ払った兄さんたちがふらふらと
....
まだ色を持たない紫陽花は
ふつふつと泡みたいな蕾をつけて
くすんだ背景に溶け込む
重たく湿った空気の匂いがし
右足の古傷がしくしくと痛む
身体は正確に天気を教えてくれる
....
大騒ぎしていた隣の部屋の大学生も
煙を撒き散らしていたスポーツカーも
凛と顔を上げていた向日葵も
みんなみんな、眠ってしまった
ベランダから両足を突き出して
ぶらぶらと泳がせて笑ってみる ....
すうっと堕ちていくような感覚と
鈍いしびれがあるという
それでいて苦痛ではないらしい
幼なじみのあの子も
隣の席の委員長も
さらにはわたしのママまで
患ったことがあるらしい
大人 ....
きっとまだ
折り返しにすら着いていないと思う
それでも
人生の半分以上
きみがいた
裁縫の授業が苦手で
いつも居残りしていた
なかなか針が進まないわたしを
いつもこっそり手伝っ ....
上澄みをそっとすくう
余分なものはなく
柔らかくしなやかで
手のひらからさらさらとこぼれる
太陽の光で酸素を作り
葉は濃緑を強める
表面の細い産毛には
小さな雫が張り付いている
....
気付いていなかった
守られていること
包まれていること
てのひらにいること
振動を感じて見上げると
電線で翼を動かす雀
池の鯉は大きく跳ねて
しぶきをきらきらと飛ばす
特別 ....
群青をひとつ、ひとつ
飽きるまで数えてみる
雨上がりの夜
余計なものは流れてしまい
ぴんと張り詰めた大気
群青
水際を囲うように
涼やかにひらひらと
色を落とすあやめ達
群青 ....
綺麗ごとが染みに見えてしまうのならば
綺麗なもので世界中を埋め尽くせばいい
それが当たり前になるように
両手を広げられることを
抱きしめるべきものがあることを
美しいものを認めるこ ....
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