朝が墜落する前の静けさに
私とあなたは手を繋いで
ただ狭いベッドにぶら下がっていた
午前五時、東京という街
徹夜明けで、熱のひかない目蓋
ピンク色の境界線がぼやけている、口唇
....
あの頃
私は叙情の生き物で
君の全てが詩歌であった
差し出された手の平に
丁度良く収まる
この手を乗せると
合わさった部分は
いつもほの暖かく
淡い色合いの空気が
ぐるり ....
腕に
注射器の後
レニー・ブルースは
裸で死んだ
多弁で
雄弁で
皮肉なスタンダップ・コメディアンの口を―
死だけが塞いだ
かれは
言ったものさ
―こうあるべき ....
キーボードの『C』を取り外し ポケットに入れて持ち歩いている
一人じゃ可哀相なので 隣の『V』も取り外し ポケットに入れた
昨夜 板チョコを三十一個も食べて 気持ちが相当悪くなって 眠った
朝起 ....
暗闇で
手を繋いで歩いていた
手首だけになって
手首からその先は
僕のようで君ではない
魂になったように
君の息遣いが聞こえる
楽しそうに
何か話してる
僕も何か答え ....
切ないほど痛む君を呼ぶ声
哀しいほど遠い君の影
「二度と触らないで」と語る君の眼
夢みたいに消えてしまう
嘘みたいに失ってしまう
「二度と来ないで」と語る君の感触
君が笑った
僕 ....
花 微笑んだら 鳥
鳥 さざめいて 風
風 透き通って 月
月 打ち明けず 花
花 移ろったら 鳥
鳥 ざわめいて 風
風 追い縋って 月
月 恨み切れず 花
花 散り乱れ ....
目の見えない猫に
少年が絵本を
読み聞かせている
まだ字はわからないけれど
絵から想像した言葉で
ただたどしく
読み聞かせている
猫は黙って
耳を傾けている
少年 ....
唇を噛み締める、あなたの口の中をみせて
血が出ていたならキスしてあげよう
傷でもないのに、舐めてみたいな
いたいって言えない あなただけにする話
秋は
もともとが 美しいものだから
心を奪われないように歩く
木琴の連打がやわらかな足跡をつけていくとしても
スリットのむこう
無言のまま去っていった あの
影のない犬の
ように