洗剤の泡が
細胞みたいにまだ
残っている
流しの排水口に垂れ下がり
命乞いの甲斐なく
数秒後
消えてゆく
ネスカフェの紙のふたを
うまく破るこ ....
人それぞれに歩みは異なり
知ってか知らずか
寄り添い或いは遠ざかり
ときには
いずれが頭であるのかを迷いながら
もしくは迷われながら
人それぞれに
異なる歩みは終わらない
かくして ....
この時を封じ込めるように
祈る
静かな瑠璃色は
両のてのひらを祈りのかたちに
そこに少し息を吹き込むようにして
そっと閉じていて
ひそやかに夢を育んでいる
あなたは
わざと大雑 ....
今まで包まれていたものが割れ
開いた胸の中にちょこんとおさまって
さいごのごあいさつ
ぽつりと佇んで微笑んでいる
あなたのからだが
いまはこんなにも
はっきりと見えるのです
....
過去のトリミングは上手くいかないよ
無花果の匂い 雨の匂い
ピアノにくちづけて 無重力、時々カニバリズムな僕ら
君を赦そう
両手を大きく広げ 世界にさよならした君を
扉をひらくふ ....
光の精たちは
淡い 淡い
透明感の中で
激しいキスをした
秋の日の
妙に蒸し暑い中を
仕方なく買い物に出かけた午後
気持ちも濡れているせいか
無駄遣いをするよりかは
いつもよりも買う物を少なく
いつもよりも短い時間で
目的だけを果たしてゆく ....
微かに薄い雲の
漂う空が秋になっていたので
できるだけいっぱいに
四角に切り抜いて
箱の一面に貼り付けて
森へ行こう
こおろぎが鳴く
葉の色が秋になっていたので
できるだけいっぱい ....
まめクジラの水槽には
売約済みの札が貼られていた
まだ幼いのか
さざ波を飲み込んだり
小さな噴水をあげては
くるくる浮き沈み
はしゃいでいる
こっそり水槽に指を垂らすと
あたたかい ....
いつの日も 青空は明るい
紅茶に溶けた 角砂糖
スプーンの渦が 止まる
こんなに悲しいのは なぜだろう
テーブルの光に カレンダーを描く
....
大好きって
それは響きだ
大好きだなんて
叫ばなきゃ良かった
声に出さずに
叫ばなきゃ良かった
声に出して
叫んでいたら
きっと俺は
ここにはいないし ....
どうして兄弟でもない男の人と
いっしょに暮らさなければならないのか
結婚前に、たずねた
そういう決まりになっているんだ
と 彼氏は言った
あんまりあっさりと言うので
笑ってしま ....
あたたかい寝まきです
でも
あたたかいふとんです
おかあさん
頭のほうが寒くて
しんとします
眠ったとたん 朝でした
お昼を食べたら
もう夕ごはん
ふしぎです ....
胸の奥の底のある
ムズムズの原因のばい菌は
苦いクスリで押し込んだ
ちっちゃな天体望遠鏡をのぞき込んで
かすかに見える星達に意味無く涙をながした
黒く揺れるブラックコーヒ ....
脈を取ると指先に
セミの鳴き声が
伝わってくる
僕らの身体の中にも
駆け抜けていく夏があったのだ
どうかお元気で
手を振り
手を降り返したあなた
あの日に
友だちでいてくれて良かった ....
何度も潰れたハーモニカが
落ちている
鉄橋の下 毒殺された猫たちが
かきむしった 芝生の跡に
昨日からの雨が しみる
通過する電車は 歯並びのいい弾丸で
消える頃に ....
「パリーへ二人で行こう」
あの頃は佐伯祐三に焦がれていて
寝物語に囁いた僕の言葉を
君は黙って受けとめてくれた
僕に離婚歴があることを
君は問わないでいてくれた
僕が夢見たパリーの空は
....
遠い昔の{ルビ故郷=ふるさと}で
おちんちん出して川を泳いだ子供の頃を
懐かしそうに語るO{ルビ爺=じい}さん
空の上からそっと見守る
若き日に天に召されたO爺さんの奥さん
....
真理に辿り着くには
真直ぐ進んで
横に曲がって
上ったり下がったり
時には間違えて
そこで道を確認して
大切なのは
一度には一つのことしか
できないこと
真直ぐ進みながら
....
むすびめに つまずいて ころんだ
ものずきに おなじみちをきた
きみも つまずいて ころんだ
そこで ふたりは むすばれて
あたらしい むすびめになった
お婆ちゃんの細い手が
絵葉書に描いた
美味しそうなまあるいピーマン
筆を墨に浸した僕の若い手は
「 いつも ほんわか しています 」
と曲がりくねった字を余白に書いた
お婆ち ....
雨が降っていたので
花を買わずに
帰ってきました
色が鮮やかだったことだけ
覚えています
雨が降っていたので
コンビニのお弁当を
食べました
ラップを取るときだけ
なぜかわくわく ....
じいちゃん ねだっしょ
ばあちゃん ねだっしょ
とうちゃんも かあちゃんも
はぁ ねでしまったども
りりりりり
りりりりり
まどのそとさ きごえる
んだ ....
ええ、なんだってえんだい。
何をそんなにしょぼくれちゃって
ええ、なんだってえんだい。
ええ、何をしていいか分かんないって
なんだいそりゃ。
俺だって自分が何していいか分かってないよ。
....
今日は仕事ないから
俺たち遅くまで寝てたっていい
でも空がほら
あんまり青いから
外に出ようぜ
競争だぜ
階段駆け下りて
飼い犬に ....
仮面
産まれたての
あの頃に
戻りたくて人は被る
嘘
他人を欺きとおせても
おのれの顔だけは
欺けない
頭蓋骨
そ ....
壁に{ルビ掛=か}けられた
一枚の絵の中の蒼い部屋で
涙を流すひとりの女
窓からそそがれる
黄昏の陽射しにうつむいて
耳を澄ましている
姿の無い誰かが
そっと語り ....
お前の髪
蚕の繭だったらなあ
白くて細くてふわんとしてて
綺麗だろうなあ
俺はお前を紡ぐんだ
糸車を
カラカラ言わせて
それから織って
お前は美しいすべらかな生地になり
....
まだしっかり帽子をかぶった黄緑の
君の大切なたからもの
やわらかい手が両方ふくらんで
哀しそうに助けを求める
ひとつも手放したくないんだね
小さなポッケを教えると
手の隙間から零れない ....
秋の空気には
透明な金木犀が棲んでいる
陽射しに晒した腕が
すこし頼りなく感じ始める頃
甘く季節を騙す匂いは
思い出の弱いところを突いて
遠くにいるひとの微笑みだとか
風邪気味の ....
1 2