墓標に刻んだ自分の名前に背を向けて
てのひらはいつまでもとどかないのです
生きることの意味を知らされないこぶしが
硬く握られたその先で照らして
夕日が水平線を越えて旅立つこの場所で
朝日 ....
お墓参りにゆきました
桜のはなびらがさらさらと舞っているというのに
遠くセミの声が耳鳴りのように響いていたのでした
地面は漆黒の闇に覆われ
桜のまわりだけが白く孔があいたように
吸 ....
やまびとの散文詩・断片1
春の息吹が、空から地面から次々と芽吹いて、
美しい山々の栄光は、
わたしたちの赤い血液のように循環する貨幣と、
太陽の動きと星々を絶えず観察して、
それを文字や ....
あなたは迷うように見上げた
今日の散光を苦い舌でなめて
長い午後を霞ませる問いかけに
指がわずかに答えようとしかけたのを
隠すみたいに柔らかい拳にして
立っていた
....
あの西の空を埋め尽くす枯野に
鶴の声がきこえる砂漠を描くあなたは
役目を終えた旅人のように 晴れ晴れとして穏やかです
静まりゆくあなたのその瞳をたたえる 夜のみずうみは
いま 爽やかな風 ....
在る
始まって以来続いてきて
この枝の伸びやかな道道に
茂る葉の呼吸は瑞瑞しい
それも
小雪のちらつく昨夜の雲上の月も
陽炎のゆらめく送り火も
私を育ててくれる花娘
季節の ....
白い帆のような女たちが証券取引所めいた渚で戯れ
ぎこちない自然が波間に照り映えているはずのどこかのリゾート地で
凶暴な不信を滲ませながら立ち働く一団の
不信の中軸のごとく立ち尽くした若い俳優の
....
その日も、少年(予定)は、間違えた言葉をそのままに口にする
変換の仕方も削除の方法も、最後には気付けないことばかりなので
いつまでも、「あ」と「い」が上手く発音できない
それでもいいか、なんて思 ....
夭折
{引用=まだ生きているのか
そんな声が聞こえるのは
夜の 穏やかな枕の中だ
まだ生きている
時代を通過して
場所を通り越して
まだ何とか 生きているのだが
もう生きて ....
何かの罠のような路地や家々の間を抜け
無造作に置かれたきらびやかな板をぬい
話しかけようとするものは話しかけてくるだろう
水の下の水 道の下の道
空白を埋めることでよしとする輩 ....
やまびとの散文詩―断片4
緑色の太陽が沈まない夜が、軋み、傾き、唸りを上げて
動揺する、わたしたちの長い旅は続いた。
黄金を隠し持つ禿鷲が棲む不毛の大地は、ときに、わざわざと
道を次々と造 ....
私が手にしたのは
真赤に熟した果実
二つの嘘
こうこうと
羽虫を誘う灯り
死に近付く熱を放って
いるとも知らず
気づくのは
焼けただれた羽が
もう風を掴むことを忘れた時
....
ほう ほう
風が鳴いてる
シグナルはしずかに震え
ぽつり ぽつり
話す声がとぎれ
遠い踏み切りから
鐘の音が ただよい
届かずに消えゆく
銀の車両は
鐘の音のな ....
齧られてしまったキャベツの行方は
前向きに決定されているらしい
後ろはそっちで
前はこっち、と
確認しあうふたりの指先はばらばらで
溶けそうな春先なのに
震える言葉がよく、似合ってしまう
....
やはり何も無くなってしまったのかと考える。
呪いと自己愛だけが自分なのかと考える。
しかし、もう、人間的な世界からは何も生まれてはこない。
折れた鉛筆の先を親指とひと指し指で ....
純粋は純粋から生まれず、常に混じりもののなかから生まれる。純粋とはまじりもののなかから生まれる本当の混じりものであり、本当の美しさである。あらゆる混合物を超越して輝く強さであり、結晶で ....