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鏡
鏡に沈む
愁いは波紋となって
私を揺らす
深さの計り知れない底から
ひきあげて
ひきあげて起し
唇に秘密を添えて
黒髪を噛み薄ら笑う
見苦しくはないかと
歪なのは私 ....
(足音が空に響く)
木枯しの吹く 門の影にひとり
傘を片手に
かんざしをなおし空をぼうっと見つめる
黒髪がしん
と光る寒さに
空はなにもいわず
そのままの形で をんなは立ち
「あ」
....
一歩一歩沈む
沈む
さ迷う森のあなたに
黒く湿った土が香り
白日夢の欠けた月が
まあるく青ざめて眠る
白む指先で
鼓動にふれる声が
ふるえて腐蝕へ沈む
をんなは
なぜか黙り ....
「 」
昨夜のあいさつは、耳からこぼれる雨のよう
に切なく潤い熟し、さららと色を空を映す欠
けては満ちる月の鏡。
お早う
もうこんな時間
そろそろ失礼します
耳に残 ....
どういう
ことかしら
丸い物を転がすなんて
何も転がさなくっても
わたしは、ひとりよ
自転する内臓が
閃いて
新陳代謝している
ぷふ
それも
わたしの限界を
諦めず
つ ....
母の小さな手が
ざわさわと高菜をもむ
塩と合わせる音が
その歴史を刻むリズム
器の底に横たわる思念
そこには計り知れぬ
脈々とした息遣いがある
その高菜を味見した母が
{ルビ辛 ....
肌にふれる
ざわめきの波に
もういいよ
さすらうため息
とまどうことなく消した
たばこの残り火が
灰皿に冷たく燃えていく
おびただしい熱が
さみしいからだを満たす夜
かえりみ ....
(行ってらっしゃい)
宇宙の森で生まれた あなたと
あなたは今頃どの辺
七丁目の角かしら
目的は果せた?
わたしは洗濯をすますところ
留守のはざまで
不透明な静けさを淹れて飲むと ....
イチジクを手にとる
あなたの背中を思い出す
いつかの電車内で振った
人体骨格のねじれた手首に
無邪気な笑顔でこたえた少女
そこにみだらな星はなく
鮮烈なスタッカートが鳴り響いていたので ....
思いも寄らず
潤いすぎれば
うっとうしくも重たくなる時があり
そんな状態では
さっぱりとかわいてみたくもあり
それでいて
方法も知らない
わたしは
煙草に火をつけて
遠い夢を静かに吹 ....
響いた翼はためかせて
風の声へ飛び続ける
閉ざされた約束の傷
脈打つ光へさらして
こえられない私をみつめる
罪色の翼に歌う
{ルビ現在=いま} 解き放つ時
押しつぶされそうな空へ ....
これから、お出かけ
終りに出来ないの
生きることは
終りに出来ないの
私が言った
命を授かった時からとは言わない
失ってから知った
いかること
かなしむこと
よろこび
わら ....
罪色の花が薫ります。
あやまらなくては
いけないことがあるのですが、
これは秘密。
わたしは、わたし
これ以上これ以下でもない事実
ああ絶望を失った
その時から過ちは秘密となり果 ....
意識されない曲線の内側で
永久機関の少女性が調弾する。
その輪郭は振動し
奥深く鳴りつつ最果ての嘘を静める。
お先に失礼
直線的で清音の科白が膨張する空のもと
つきぬける(或いは私 ....
わたしの血は
青く青く沸騰し
ゆらめきながら立ちのぼり
はてしなく透きとおった
青をふらせた
しなだれた渇望のからだは
ゆく先のしれないおもいと
めまいの予感を内包していた
いよい ....
ぷぷちゃんのつぶらな瞳が
踊るように歩く
青の裾野を
静けさを流しながら
口笛を吹きながら
踊るように歩く
いがらっぽい重みに耐え忍び
針と糸で生活を縫う
母
この家は。
....
アゲハのハネは夏の欠片
土の上にパリン 零れる小宇宙
落ちていたハネなんですけれど
日にさらされてか
ガラスのように かわいていて
リンプンは星屑しゃらんりん
本体は見あたらなくって
....
流れこむ
悲しみ
ほころび
流れこむ
幸せの素粒子レベルの胎動
風に乗った翼が
青く脈を{ルビ搏=う}ち
わたしの過去を
虚空に届ける
混沌の光子
すなわち意識の次元的産声 ....
しらないのですか
しらないのですか
わたくしはもはや
すがたなきもの
たいしゃはすれども
かれはのしたの
つち
とおなじ
からだをもっているのです
しこうはすれども ....
鳥がついばむ彼方の星を
ここはどこかとうめく空
雨がしとしと名を呼びます
風にちらちら花燃やす
迷いこんだは露の中
返事をするのは うそぶく化身
いいねぇ
ねえ
舞って散るのは ....
しずまりかえった夜
の浸透圧で
ゆるやかににじむ
染まりゆく夜
染まりきるころには
わたしたち 空っぽ
恋は死ぬ
愛は死ぬだろうか
輪郭は想う
幻色で、つめたく卵
うすく微 ....
うつむく おもてをしろくして
みだれ黒髪 風へすき
雨のくる のをそぞろまつ
かすみのころもを まとう月
かごとゆられて {ルビ何所=どこ}へやら
{引用=個 ....
夜明けにそっと
顔を手でおおい
いかにも
不吉に笑う
今日の糧は
厳かに実っているけれど
何も言わず
ただぶらさがっているわけではない
しゅくしゅくと鳴る炊飯器
ひとつぶひと ....
しずかにたたずむ ひとは
風の流れる さやかな笑みを
薄紅色の肌ですいこみ
未練なく放熱し
終りをうちあけて
やわらかに傾いた
音色の日差しにつつまれ
緑は青青と奇声を発しながら
....
もう
鋭いところまで、
来てしまっている。
人々は、
気付いているのであろうか。
虚空は、
妖しく、うねりながら明滅している。
あさっての老人は、
{ルビ落葉=おちば}に手を合わせ ....
末端の夜で
日常にある
輪郭のない
さびしさを
手繰り寄せる
その顔は
か細くゆがみ
青白い灯火に
照らされて{ルビ寝=い}
さまざまな角度で欠けている
ほおいほおい
呼 ....
サービスで付いてきた
しおりの柄が気にいらない
本の中身は上等なのに
どうにもこうにも
これではいけない
気にいったしおりを
自分で作ろうか
それでは本に失礼ではないかな
それでも ....
鬼灯が耳をそばだてている
あなたの声をききたくて
夜な夜なおもいつのらせて
あかくあかく重く秘めて
口にふくむ
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