色は午後から塗りましょうと告げられ
私は途方に暮れてしまった

先生、
この鉛筆でなぞるべきものなど何処にも見あたりません
という小声の訴えは
38分の1の軽さでもって
上着のポケットに ....
寒さは人を侘びしくさせるので
細い雪道ですれ違う時は
どちらからともなく微笑みあって
凍えるのを防ぐ

カタクリの粉を握るように雪を鳴らして
灯りのもとへ帰る人の足どりを子守唄に

産 ....
 
長い針がてっぺんで止まって
からくり人形が踊りだすように
季節は正時を知らせないので
私には夏と秋の境目が分からない
午後いつものように並木道を通ると
すっかり中年になった白樺の深緑
 ....
 
並木道に
誰かの日傘が忘れられているのを見つけ
持ち主の名前がなかったので
失敬することにした
けれど自転車のかごに引っ掛けて
ペダルをこぎだしたそばから
日傘は陽を浴びて匂いたち
 ....
38億年分を10ヶ月の間で
駆けぬける赤ん坊は
腹の中 ある時期になると
両腕に生えている立派な羽根を
一本一本抜いてゆきます

その間に
両足はするすると伸びてゆき
指先に爪が生え
 ....
せとぎわ
おとこのわらいごえは
打破破破破、で
でも
おんなのわらいごえは
不不不不不、だった
それは
おとことおんなのかげで
苦苦苦苦苦、と
おとこのつまがわらいをこらえているのを ....
届いたのは
明日の朝刊だった
あわてて死亡欄をチェックし
自分の名がないことに安堵する

そのあとゆっくり
予定を手帳に埋めてゆく
らんららん 出張中の男の洗濯をしようと乙女心を持参しアパートへ向かったら
まさに今 女にまたがろうとしている男と遭遇
鍵をかけていても私は合鍵を持っているのだから男の防衛策意味なし
セコムしてな ....
父の指にあわせて
ピアノがアカペラで歌う
大胆なくせに不安げなその歌声が
休日のリビングからご近所にも響いてしまって
父はますます手のひらに汗をかく

父よ
バイエルの14番から
 ....
彼らの地面が

迷うことなく飛翔している

その背筋に

私はここから

敬礼する
瀕死の人間の魂が電波を操れるわけはなく
だからあの明け方に二度鳴ったベルはあなたのおじいちゃんの仕業ではなく
単に誰かの間違い電話だったのだよ、 と言われ
冷静な私はそれを十分わかっているの ....
  +

忘れていたことすら忘れていたのに
嗚呼、忘れていたことを思いだしてしまった
思いだしてしまったことをいつかまた忘れられるだろうか




  ++


花の絵を描いて ....
台所で玉子を割り
箸で溶いて
フライパンでバターとからめた


食卓であなたと向かい合い
それを口にふくんだ時 はじめて
涙が溢れてきた
  (お前も卵にはなれなかったのだね)

 ....
時々
理由もないのに ふと
立ち止まりたくなる
その時
そこには
透明な人の透明な碑があって
私たちは
それとは知らぬまま
刻まれた言葉を
心の指先でなぞっている
急に泣きたくなっ ....
箸を持って近づいてみたら
じいちゃんの骨はほとんど残ってなかった
焼き時間を間違ったんだって
ママとママの姉弟は泣き崩れて
火葬場の人は床につくくらい頭を下げていて
あたしは用事のなくな ....
熱海といわれても
有名な温泉地という以外
実はなにも知らないのだった
このお題、絶対残るよなと思いつつ   (※)
毎週書きつぶしていったけれどやはり残りつつあって
途方にくれながら飛行機で ....
アメリカ人はみんな金髪なんだと思ってた
マリリン・モンローがそうであったように
売れたいがために染めたのだと知ったのは映画を何本か観た後だった
TVじゃ相変わらずデイブ・スペクターがからかわれて ....
その本を手に取るたびに
同じページばかり開いていたから
今では机に置くだけで
パラパラと そこへたどり着く

私の心の傾きが
そのまま しおりになっている
石畑由紀子(108)
タイトル カテゴリ Point 日付
線の風景自由詩804/2/7 2:18
冬の音自由詩604/2/5 1:21
正時の鐘(緑の日々・2)自由詩804/2/3 1:37
緑の日々自由詩2404/2/3 1:33
風切羽自由詩504/1/30 21:47
ねがい自由詩304/1/30 21:31
今朝のできごと自由詩704/1/29 2:01
正三角形自由詩24*04/1/29 1:59
幼い手つき自由詩704/1/27 0:35
飛行機雲[group]自由詩404/1/26 1:04
眉尻自由詩504/1/26 1:00
(幾つもの)ある午後自由詩804/1/24 23:41
月のもの自由詩1304/1/24 23:32
墓碑銘自由詩604/1/24 3:08
終わりの続き自由詩804/1/23 0:47
熱海自由詩16*04/1/23 0:44
猛暑帯広より拝啓マリリン自由詩704/1/22 1:20
しおり[group]自由詩2704/1/22 0:45

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