僕の消えていく闇の名前
石炭ボイラーの匂い
江浦路の路面電車が踏みつける
レールの間で腐っていく{ルビ瓜=うり}の皮
入り口だらけの逃げ場所

擦り切れた人民幣
二十五元五角の片道切符
 ....
農家の母屋を改造した学生下宿が
家賃一万円の住処だった
わたしは床の間のある客間の六畳
一二畳の居間には親友が
離れの六畳には先輩が
隣の六畳と四畳半には後輩が
それぞれ巣くっていた

 ....
明日を、呼ぶ言葉は
失われてしまった
先程くべた小さな薪が
二人に残された最後の言葉

炎を囲んでいるというのに
横たわるこの夜の湿気は何だ
天赤道上の星の名を詠んでも
横たわるこの
 ....
冷たい雨の暗がりが
ぼんやりと寂しく誘う
私を溶かし込むには
ちょうどいいおおきさで

ほほにつたう
みぞれの砕けた{ルビ飛沫=しぶき}
雲からはぐれた
それも孤独

  いいわけ ....
落日
蜃気楼のよう
だけど蜃気楼じゃない

焼かれるのは
空じゃなく
今日という日の末路

果てるような
限界線
焼かれるのは空
じゃなく
奪われていくだけで
体の細い先っぽから熱
低い空に流れていく
雲に穿たれた青空

なくなってから知るのだと
ひとは言うけれど
得てすらいないのだ
失う事すらできないのだ

  小舟 ....
名前のあるものを信じない
だからまず、二人
 名前を捨てた

形のあるものを信じない
美しさだけを模倣する
 {ルビ仄=ほの}かな{ルビ星行灯=プラネタリウム}をとざして

境界をつく ....
私をかたちつくる
わたしのかたち
私はわたしのなかにあって
手を持ち指を持ち唇を持って
君を抱きしめる

でも
私を入れたわたしを
あたしが包み隠して
誰かとの距離を調節もする

 ....
永遠の愛、が
刻まれていた
赤い鉱物顔料で飾られて
二千年の地層の中
地中にしみこんだ月の光で
風化した言葉だったから
秘密が解かれるまでそれは
王の名
呪い
花の名前
祈り
そ ....
すきとおったものを重ねていくと
届かなくなる
幾重にも屈折率をいいわけに

すきとおった君を重ねていくと
届かなくなる
思い出が赤方変位に拡散して

すきとおった偏光を重ねていくと
 ....
波打ち際
雪に縁取られ
{ルビ烽火=のろし}をあげる夜

  松がいい、そうだ黒松だ

沖の漁船
送り雛のように
漁火を灯いて連なる夜

  星が海に突き刺ささってやがる

雲 ....
星はひとつづつ
オルゴォルのピンのよう
ゆっくりと巡って
光の楽譜をなぞる

  昼に
  雪を降らせるのは雲で
  夜に
  雪を積もらせるのは月だと
  指揮棒で譜台をたたく
 ....
僕らの住処は小さな漁具小屋
呼びあう吐息を波の声に隠し
漁網に髪を絡ませながら
夜の深まりを体温で追った

雪夜の渇いた闇をとかした雲が
入り江を真冬のガッシュに染める
朝の刃を隠した列 ....
数える、シグナル
着信履歴

数える、車窓の鉄柱
サボテンの棘

数える、つたえたいことば
読んでいない背表紙

数える、もらったさやしさ
星のまばたき

数える、蝉の脱け殻
 ....
凍える桜の枝を煮る
花の色に染まる
記憶のひとひら

なくしそうな
砂のらくがき
ため息で
消して

あなたの指した
電柱の奏でる擦弦楽の季節
手をさしのべても
触れるもの何も ....
セルロイドの筆箱が
カタカタと
     そんなふうに
胸の{ルビ襖=ふすま}を揺らす
何気ない言葉

  風、もしくは紫陽花
  色を移しながら

みんな好きというあなたは
きっ ....
便利さの
果てに
背負ったもの


子や孫に
背負わせるもの
{ルビ香辛料=スパイス}という宇宙なのです
すべてを包括していく宇宙なのです
包み込んでいくのです
溶かし込んでいくのです

カレーに国境はありません
たとえば、カレーまん
インドの ....
行方もない風たちを
帆にはらませて
もう帰らない船の
船笛の消えていく先
短い呪文
アストロラーべ

二人の旅路を
羊皮紙に書き出しても
深海の底に
沈む姿があって
透明な海藻に ....
街に吹く薄汚れた上昇気流
舞い上がる鳥たちは
自由に見えても
危うい乱雑な流れで
時に墜落する

それは風が裏切ったのか
その美しく夜色の翼を
暗闇の代理人は
タールで固めた道が
 ....
花が咲き乱れ
緩やかに風が渡る高原を
想うのはもう やめた

  飛べないのではなく
  飛ばない虫

穏やかな海に向かう
明るい窓を
開けるのは やめた

  鳴けないので ....
熱砂の道を歩こうと
踏み出す先に砂漠はなく
求めた強さだけ
葡萄詰みの唄は遠ざかる

星座を大地につなぎ止めるもの
{ルビ哈密瓜=はみうり}の蔓、祈りのこえ
流れ星の落ちる果ては
岩と ....
親父の趣味は小さな鉢植え
鉢の順番を並べ替えては
玄人じみたため息をついて
またはさみを入れる

たどり着けない完成に向かって
まず渋茶をすするのも

たどり着けない完成に向か ....
行ったことのない所ばかりの
詳しい地図には飽きたから
パチンコ屋のチラシの裏に
勝手な地図を描く

縮尺や図法なんて知らない
知ってる場所を適当に
描き出してみるのだ

   小学校 ....
       封じ込めたい
       想いだけでは
       精製できない
       透明な水結晶

純粋でない核        宇宙との狭間
命を拒む冷気        気圏 ....
これから明けていくというのに
どんな闇より深い
口笛が
聞こえる

とぎれがちになるのは
灯台が
瞬くから
そして波が
騒がしい

そう、音が
熱をともなって
肌を
突きぬ ....
ひどく壊れた
{ルビ短笛=ピッコロ}の夜
胸の隙間にしみこんで
かたく凍った涙が
この身を裂く音

修行者のように
振り仰いだまま
静寂に刻む
生きたまま
この身を裂く音

  ....
舞い上がったタンポポの綿毛が
振り返って見下ろした風景

歩道で蝉の抜け殻を
知らず踏みつぶしたときの音

そんなふうに目覚める朝

新しい自分が
古い骸に驚いたり
影よりも陰 ....
歩道の残雪を
踏みしめる律動
声でもなく
音でもなく
歌でもなく

  白い吐息に飽きて
  見上げる
  大気の天蓋
  一弦の
  その楽器

  透明におびえ
   ....
あの暗闇は
くらやみではなくて
照らされていない
本当の姿

あの光は
まばゆいのではなくて
その向こうが見えない
闇の別名

くぐり抜けて
会いに行く
降る雨も、雪も
肌で ....
たりぽん(大理 奔)(550)
タイトル カテゴリ Point 日付
上海1986未詩・独白8*06/2/26 0:38
二台の洗濯機における青春の一考察自由詩37+*06/2/23 22:23
君は、季節をはずれてしまった[group]自由詩11*06/2/22 0:37
傷、いとしく自由詩10*06/2/19 13:41
夕刻、焼かれるのは携帯写真+ ...28*06/2/17 23:33
冬の喪失自由詩8*06/2/15 23:27
二つ折りの恋[group]自由詩5*06/2/14 21:26
銘菓マトリョーシカ自由詩8*06/2/12 23:16
記念碑、月に埋もれて自由詩8*06/2/11 19:51
透明を重ねた、届かない自由詩7*06/2/9 23:58
おくり[group]自由詩9*06/2/8 20:15
うつつな夜のオルゴォル[group]自由詩12*06/2/7 0:51
うみべの隠れ家自由詩6*06/2/5 21:40
かぞえて[group]自由詩706/2/4 23:56
それが喩え、だとしても[group]自由詩16*06/2/3 23:40
セルロイド自由詩7*06/2/2 23:53
風の十字架携帯写真+ ...906/1/31 11:35
アルゴリズム カレー[group]未詩・独白10*06/1/29 22:28
とりたちの星座盤をまわして[group]自由詩14*06/1/28 16:18
墜落するという方法自由詩8*06/1/26 17:12
つなぎとめるものはだれ自由詩11*06/1/25 22:26
キャラバン・サライ[group]自由詩8*06/1/24 22:49
アルゴリズム 盆栽[group]自由詩9*06/1/22 21:43
地図に有限は生まれ自由詩506/1/22 13:26
結晶という方法自由詩6*06/1/22 0:27
残闇の口笛自由詩1206/1/20 21:56
或る日の凍裂自由詩7*06/1/18 22:35
覚醒[group]自由詩806/1/16 23:49
オクターブの双月夜。[group]自由詩12*06/1/15 12:27
みちならぬ[group]未詩・独白6*06/1/14 23:55

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