もうその土地は更地にして
地主さんへ返したそうですが

礼文の古い家 元は漁師の 父方の親戚の家には
ものすごく腰の曲がったおばあさんが
何年ものあいだ 一人で住んでおりました

私の母 ....
飼い慣らされた平和ボケ
上等だよ
懐に武器を持ち
兵器の影を平和と呼ぶ世界に
{ルビ私=庶民}がしがみつき生きる価値があるのかい

   * * *

対話を放棄したのか
そこへ至る ....
東京の街へは二度と来るものか

、と誓った夏の終わりの東京。
ノンアルコールを片手に私はヤモリだった。

   * * *

{ルビ「あれ? 未成年だっけ?」=大人の男の人の声}が私に当 ....
日が昇っては沈むように
うつろう
私は
早く死ななければならないのですが
また手が塞がっているふりをするのでしょう
ふかふかの 布団の中にだけ在る しじま
獰猛な憂鬱を{ルビ誘=いざな}う 呼吸 冬空にしがみつく枯れ葉
私の食道の裾 擽る赤黒い衝動
その指先の なんと神経質そうなことか

   朝を妨げな ....
ズッキーニ座流星群は今夜がピークだよ♪
そう言いながら目の前を横切る鰊を
とりあえず一撫でして歩き出す
何時がオススメだとか、方角はどっちだとか?
……ッどおぉぉぅでもいいよ。

空は
 ....
小川の中に立つてゐた

ほんたうに小さな
足首が溺れない深さの
跨いで越えられさうな幅の
小さな川の流れの中に
私はひとり

世界を廻る水の一端に触れてゐる

とまることのない流れ ....
夜をあたたかにする
二月の雪は
ほとんど真っ直ぐに降る
小石を詰めた財布が
昏い水に沈むように
語られない常識
掴み損ねた本能

常磐色の烏が一羽、胡桃の枝から生えていた。

   * * *

共感はエメラルド
しかし憧憬はすでに色褪せ
疑念は大気に溶けひろがっている

 ....
高齢の母子が凍死していた
アパートの一室を目がけ
放水車が生温いゼリー液をまいている

青空にキラキラと
イチゴフレーバーはキラキラと

少し固まりながら落ちてくる
ゼリーに辺りは満た ....
日の出の少し前
薄闇に息づく 乾いた唇へシロップを垂らす
これは永眠への備え

しかし、それを十分に行える生物は
私の知る限り猫のみである


   “cock-a-doodle-do ....
だだっ広い雪原の片隅
柏はカラカラと葉を震わせ、
息苦しさを覚えるほどに白い小径を
雪焼けした子供たちが駆けていく。

 チリリ
    チリリ

  チリチリ
      チリリ
 ....
干上がりかけた沢の縁
山椒魚は怒るまい
ペンケのダムもパンケの家も
知らずに不幸と泣くだろか
ただ生きるのみの今世に
祖父の語つた魚に逢へずとも

  謳歌せよと、
  忘れられ、た、 ....
殺意とは海底からくつくつと湧くあぶく

潮のうねりに揉まれ
白波に紛れるように

  混ざり合う
        記録されない日常
  を構成する
         切り捨てられる方を ....
己の肉を削ぎ落とし平然と泳ぐ
あの人たちの刃は
余程よく研がれているのだろう。

捨てられた、肉片。その腐る様、
鮮やかに、グレイッシュの。
あるじから存在を否定された、
小さな瑕のある ....
紫外線量だけはいっちょ前に初夏の
寒いオホーツクの波間へ海鵜が潜って
ぴょこりと浮かぶ
嘴の一つが淡く 光った。
あれは
いつかの私の恋心だろうか……

潮風を爽やかに甘いだけだと思って ....
{引用=無垢な滴よ
そのドアの向こうには何があると思う?
こちらとあちらが
交わらない為に生まれた
無垢な欲望よ}


私の部屋には壁がない
けれど、室内にはじっとりと
危うさが飽和 ....
私を綴じる雨の影よ、色褪せないでおくれ
と白衣の数学教諭のお情けの入っていたブリキ缶が匿う
  なんという薄っぺらな人生!
  そう書き添えたら手拭いで蜂を叩き落とし
  生死は確認せずに恭し ....
子供の頃から私は高い場所が好きだった。
家の中なら、
天井に散らばした星に手が届くロフトベッド、
に、寝ていれば、
リビングの、
話し声が遠くなるから。

床に布団を敷いて寝ると、
柱 ....
春や こんこん
はぁやく こんこん

春や こんこん
うちへさ こんこん

こんこん

こんこん

もしも、はよう着いたとて
何するつもりもあるまいが

春や こんこん

 ....
おすまししたミシンさんの濁った油には、
シルクピンと埃と三月の寂しさを愛しくさせる成分、
例えば、先輩の輝かしい功績やひたむきな放課後、
後輩のまっすぐな憧れや貪欲な昼休み、
その間に挟まれた ....
例えば今、息を吐く。
そして、二度と吸うことが無くてもいい――

結論からいえば
その日は私の声音に含まれる死神の衣擦れが
転覆病の金魚の側線を掠めただけだった
パクパクする半透明な唇を読 ....
しらふの星が目障りな夜のことです。
漆のように艶々とした海を生きる人魚の
三オクターブ上へ鰊は鱗をバラ撒き
チャコールグレーの砂を照らしたそうですよ。
それ以来、
チラチラチラチラ
光るの ....
今、頭の片隅にうぶ声が響いた。
小さく美しい声、詩に育ちそうな予感、
私は慌てて掬い上げ ようとした。
けれど雑多なニュース に、上書きされ、
今、私に残っているのは、
心を打たれたという  ....
積んで積んでギフトボックス
欲しがり屋さんは誰だろう?
裏返しの目玉 つり上げた唇の端
小首をかしげながら受け取った
  ウソつく子は悪い子/良い子
  ウソつかない子は良い子/悪い子
  ....
異次元の慰めが
青みを忘れた虹の絵のように
私をすり抜け
漂う
残り香は

何かが腐っていることを事務的に知らせる。

――幸せになりましょう。

うるせえな

――あなたは愛 ....
白樺が銀の葉をギラギラ揺するから、
どこか浮わついていたのだろう、
まっさらな、日記帳を汚してしまった。
湿っぽい土のにじむ、
その先、
桃の木は裏表紙に根付くだろうか、
それとも更に次の ....
ててんたたん ととんつてん
きしゃ はしってる

ててんたたん ととんつてん
きしゃっていうか きしゃじゃないの

それくらいは しってるし

でんしゃれっしゃ れっしゃでんしゃ

 ....
昔々、空が有象無象に充たされつつあった時
彼女は心の欲するままに転げ落ちました

   * * *

先生、量子宇宙の話をしてください
物質の成り立ちを
電子の軌跡が尊いとする根拠を
 ....
{引用=
幼子の髪にうつれる檜葉の香は常磐色とぞ見えしが今は


使い古した悲しみが
千々に崩れて風に舞う
遠い昔の草むらの
トンボを毟った黄昏に
笑う子供を卑しむる
君を大人と呼 ....
(45)
タイトル カテゴリ Point 日付
漁師の家 うつくしい硝子自由詩9*24/3/17 13:14
労働者は使える頭数が揃っていれば、きのこ派かたけのこ派かは問 ...自由詩224/2/29 23:57
無精卵は孵らない自由詩224/1/29 0:15
五行歌自由詩223/5/14 14:28
無題(ふかふかの 布団の中にだけ在る しじま)自由詩023/1/29 13:51
帰路 〜ズッキーニ座流星群のあった日〜自由詩1*22/10/19 23:06
水鏡自由詩122/8/13 1:15
五行歌自由詩222/7/6 17:39
認識に関する三つ目の切片を囲う九つの蝋燭自由詩222/1/20 0:45
イチゴゼリー(無果汁、ゼロカロリー)自由詩1*22/1/20 0:10
認識に関する二つ目の切片に至るまでに拾われた七つのパンくず自由詩020/3/14 16:49
硝子のてんとう虫は凍空を飛ぶ自由詩120/1/21 21:22
挽歌自由詩4*19/11/7 17:37
素心自由詩019/10/24 19:26
収集癖自由詩0*19/10/8 17:39
自由詩019/8/14 18:56
結露凍結自由詩319/4/28 15:25
終末にはほど遠い平日の自由詩119/4/9 23:26
秋の夕暮れ、水溜まりはおおよそ零度自由詩519/3/20 16:41
雪割り自由詩119/3/13 15:47
卒業自由詩519/3/7 14:41
淀みに浮かぶ、あれやそれ自由詩219/2/14 16:20
糸の追憶自由詩019/1/30 20:21
トキメク自由詩019/1/19 12:54
あまやかなつみき遊び自由詩119/1/8 13:41
腐臭を伴うつみき遊び自由詩418/12/26 14:31
日記に巣くう虫自由詩218/12/13 16:34
きしゃ自由詩218/11/29 16:08
認識に関する一つ目の切片と七つの瞼自由詩2*18/11/20 16:20
n番目の郷愁自由詩4*18/11/9 18:03

Home 次へ
1 2 
0.12sec.