[33]ハァモニィベル[2016 09/11 00:25]★2
話を切ると、
彼は、一口飲んだ。
そのとき
「広漠としたホールの中で、私はひとり麦酒(ビール)を飲んでた」朔太郎が

虚無よ!雲よ!人生よ

と締めくくった「虚無の歌」を思い出した。
渓流をみながら中也が

冷やされたビールは、青春のやうに悲しかつた。〔…〕濡れて、とれさうになつてゐるレッテルも、青春のやうに悲しかった(「渓流」)

とうたったのも思い出した。
漱石の『吾輩は猫』が、飲み残しのビールを舐めたせいで水がめに落ちて死んだことまで想い出す。

そして、
幻のベルギービールとグラスを手にした彼は
書棚から一冊だけ取り出すシムノンを、どれにしようか、と
迷いながら見つめた。



  (題名/「限りなく下戸に近いブルース」
   または、「青い鳥をさがして」)


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