[11]田代深子[2010 08/24 23:11]★5
むなど、母親に怒られた子どもと同じではないか。Kが自殺をしたのは、先生に出し抜かれお嬢さんを奪われたからではない。愚かしくも自分が、友人の心も知らずに彼を苦しめ、結果、断絶されてしまったと感じたからだ。《もっと早く死ぬべきだのになぜ今まで生きていたのだろう》。それは若い信念と友情があったからだ。しかし恋によって信念は消え、その恋も破れ、家族もなく、ただひとりの友も失って、もうよるべない。《たった一人で寂しくって》死ぬよりしかたなかった。
 そして先生も10数年経ってKのあとを追う。Kを追うのだ、先生は。寂しくて。
 3部だけ深読みすれば、そんな二人の寂しさばかりが見えてくる。高校生の抱える寂しさに、響くか、どうか。

#《 》は、夏目漱石『こゝろ』角川文庫(平成18年改版7版)より。
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