[81]渦巻二三五[10/14 23:29]
せて、丸い目を見開いている。まるで自我崩壊したような表情であるが多分今、彼は猛烈に考えている。
 「喝!」
 「は」
 老師が一喝した。今川は――まるで夢から覚めたように戻って来た(・・・・・)。
 「考えることはありませんぞ。解ろうとしてもいかん。あんたもう解っている(・・・・・)。言葉にしようとすると逃げて行きますぞ。」
 「はい」
 今川はすうと体を前に倒し、畳に両手をついた。
 老師はその様子を見てからゆっくりと云った。
 「だからな、そんな美術品など禅寺には無用だと、了稔さんは申したのですわい。だから出てくる度に売ってしまった。所詮それだけのもの、有難いと貴ぶ
[次のページ]
戻る