散文(批評随筆小説等)
坂下さん/MOJO
 
。父の勤務先は建築資材メーカーで、社長はそのメーカーから材料を買い、工事現場での施工に使う。坂下さんと父とは巳年の同い年だった。そのことはぼくに色々なことを考えさせる。
 業界では知られた企業に勤める父。営業職で毎日帰りは遅い。休日はゴルフの打ちっぱなしに通い、テレビの相撲中継を見ながら晩酌する。そのころのぼくは、まだ父が嫌いでなかった。むしろ、どこにでもいる普通のお父さん、として誇りにしているようなところもあった。
 一方の坂下さん。妻も子もなく、家もない住み込みの職人。現場から帰ると暇を持て余し、新聞を隅から隅まで読みつくし、他に話し相手はなく、ぼくのような若造を相手に政治や経済の話を振っ
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