ポイントなしのコメント
[菊西 夕座]
思い出よりも先に進んでいたはずの自分が、思い出に「取り残されていた」というのは不思議な感覚です。
正確には思い出があった場所に取り残されてしまったぼくの中の思い出ということなのでしょうが、「グラスを傾けて」空っぽになる目の前と、どこか重なる空虚感があるようです。
思い出はグラスをはなれて、ぼくのなかに飲み込まれたのでしょうが、「たぶん此処にはもう帰らない」ということが、空のグラスをもう傾けることはないことを予感させ、それによって酒場(あるいは何かをのんでいる自宅)から取り残されたぼく、すなわち現在からの孤立感をいっそう浮き彫りにしているようです。
郷愁をかかえるかぎりぼくは周囲から取り残されてしまうわけですが、詩というグラスにひとまず移植することでどうにか居場所を保てるのであれば、詩にするしかないと共感できる次第です。
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