ポイントのコメント
[田代深子]
 原民喜の『鎮魂歌』を、これまで何度も何度も読んできました。〈自分のために生きるな、死んだ人たちの嘆きのためにだけ生きよ。〉と繰り返される作品です。  民喜は、戦前戦中に作家としてたちゆかず懊悩し、妻を失い、そして被爆を体験して、無数の死者を抱え込んだ。それからというものは「死」のためにだけ生きていた。まるで死者を忘れないため、それを書くためにだけ、わずかに生き延びさせられた人のように感じます。  彼の、嘆きと苦しみと祈りそのもののような〈鎮魂歌〉は、しかし乾ききって明るい希望の朝に至ります。自身についてはもう何一つ望みなど持たない、絶望の果てにある人だけが、完全な祈りを書けるのかもしれません。  思えば明日は8月6日。今年は日曜日なのですね。
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