小詩集【くじらヶ丘にラベンダーの雨】/千波 一也
受けているだろうかと
指を折った数もとうに忘れて
そんな迂闊さをおもいだした朝に
隣人は発ってしまった
なつかしい名前を
書き置きに残し
春はふところ
広く深くと願いを提げて
あらたな一歩の小さいことを
やわらかに知り
夢をかぞえる
夏は唇
次から次へと流れるうたは
いざなうせせらぎ
濡れゆくあそび
秋は肩幅
ふるい扉に合う鍵は
夕刻のたびに錆びついて
おのれの影の細さを見つける
さびしく鋭く
冬は指さき
星座のなぞりに雪明かり
厳しさの輪は
やさしいまもり
意味を与えることの一方通行に
流れをうながすものが風
産声は遙かに確かに
まどろみの奥のまどろみに
発つため或いは迎えのための
さすらいに笑む
きのうの火はきょうの水
あすには火にかえる
風のおわりに例外はなく
風のおわりに例外はなく
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