小詩集【水没ハーモニー】/千波 一也
重ねてしまってはならない
ふたつのかいなに櫂を分け持ち
等しくはない配分のちからだとしても
ふたつのまなこの捉えるものが
一つという名のまぼろしだとしても
その危うげな姿があるからこそ
潮騒はやむことを知らず
誰かが
誰かの
言葉となる
漕ぎゆく者へこのうたを
ふたつの鼻孔へ
ふたつの耳へ
ふたつの頬へ
ひとつの舟へ
漕ぎゆく者へこのうたを
二、漂流
愛のうたはいまも未完成だから
せめて
おもりは丁寧に縛りつけてあげよ
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