春の額縁/塔野夏子
 
菱形の額縁に入れておいた
つぶらな瞳をもつ心臓が
ある日 部屋からいなくなっていた
少しばかりそのあたりを探したけれど
見つからないので
仕方なくいったん部屋に戻って
お茶を飲んでいると
何くわぬ顔で帰ってきた
あるところで
チューリップの花を見てきたのだ
とだけ云う
そうか とだけ返事をして
先日買ったばかりの正三角形の額縁を見せてやると
気に入ったふうなので
今度はそれに入れてやった
すると心臓は
地球みたいに自転をはじめた
つぶらな瞳を
時折またたかせながら

今度はチューリップを買ってきて
そばに生けてみようかと思う
たしかに似合うかもしれない




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