夜、幽霊がすべっていった……/岡部淳太郎
 
は確実に下っているように思える
(のだが)
背後はもちろん闇の中
(なのだが)
振り返ることが出来ないために
闇の密度はますます高まっている
(のだが)
今晩は。
今晩は。

もしくは彼女が
君の前に現れた最初の姿は
とても透明だった
(のだが)

やっと
君はたどりつく
夜は時化
道は広い 表通りで
光瞬く文明の喧騒だ
君は 明らかな人を見つけ
がたがたと
歯の根で幻の糧を喰いちぎりながら
百年も老けこんだような気分で
云う

幽霊が
幽霊が

すべっていった……

すべっていった
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