宇宙こいのぼり/大覚アキラ
五月の地表を離陸したこいのぼりたちは
太陽から吹いてくる風を上手い具合に活かして
素晴らしいスピードで重力圏を離脱した
それはこいのぼりたちにとって
反乱であり革命であった
こいのぼりが逃げてしまって
屋根の上やマンションのベランダには
だらしなく垂れ下がった吹き流しだけが
奇妙な深海生物の死骸のようにぶら下がっている
こいのぼりたちは宇宙空間にすっかり順応し
真空の中を滑らかに泳ぎ
いまや火星あたりまで辿りついたらしい
宇宙で生まれた第二世代のこいのぼりたちは
親たちから地球の話を聞くのが好きで
青い空が見てみたいなあ なんて
無邪気に言っては大人たちを困惑させている
静かな静かな無限の空間を
群れをなして飛んでいくこいのぼりたち
大きく開いた口から“永遠”を呑みこんで
尻から“無限”を垂れ流しながら
こいのぼりの群れは飛び続ける
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