メモ/はるな
まだ植物の世話はできていますか、と医師が言うのではいと答える、じゃあそういう喜びは感じるのですねと彼はまた言う、喜びですか、喜びを感じます、でも枯らしたらいけないと思って…と言うと医師はすぐさまパソコンに何かを打ち込む、指がきれいな人だと思う。いったいここへきて何を、誰のことを話しているんだろうと思う、いくつもの美容院の前を通り過ぎ、コンビニと、ドラッグストアと、パン屋は2軒ある、駅の階段を昇って降る。いったい誰に何の、誰の話をしてきたんだろうと思う。誰の詩を書いてきたのかと思う。誰かのために何かをしてきたことはないのにな。
胸のところに小さな部屋ができていて、それが呼吸を奪ってしまう。だからわたしは浅い息の中から注意深く酸素を集める。目と耳が自動的に拾う夥しい情報からいるものを選ぶようにだ。それから、誰もいないリビングをわたしのためにあたためて眠る。(ときどき、もう何も感じたくないと思う。もっとときどき、何も感じられないと気づく。)
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