メモ/はるな
ない世界がわたしにはうらやましい。その世界でできるだけたくさんの言葉を作って欲しい、けれども、作るほどに失われる世界は確実にあるのだ。いままさにその境目をあるく5歳。言葉の自由さと不自由さはほかに比べられるものがない。ほんとにないのだ。言葉はいつも敵ではなかった。
「ままみて、これってかみさま?かみさまでしょ?」と指す先にカーテンのタッセル、バラバラになったあいうえおの一文字スタンプの並びをみて「かみさまことばになっちゃったなあ、れ、ぬよ、はやむしあく、ね、わ」。
むすめにもかみさまがついている。わたしのとはちがう、なにからなにまできっとちがうかみさまがいて、世界があること、せつなく懐かしい。かつてわたしも5歳で、無謀で、臆病だった。低いところから世界がすごーくひろくみえてて、今よりも近く思ってた。切りそろえた前髪、ふと思えば、母と同じやり方でむすめにそうしているわたし。
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