喋る雨傘と満月/りゅうのあくび
 
冷たい雨音を遮りながら
仕事帰りに紺色の雨傘は
静かに溜息をついていた
鉄道駅に着いたので
ちょうど雨傘をたたもうとして
夜空を閉じるときに
満月がみえると本当はいいのにねと
何か反実仮想にも似ている
緩やかな吐息を
紺色の雨傘は僕に吹きかけた

鉄道列車を待ちながら
今夜だけは月夜を見せてくれよ
満月が一番近づいて
最大のサイズで見える夜空なんだと
僕は雨傘に呟いてみた
ただ紺色の雨傘の
永くて錆びた柄と
軽く握手しながらで
やはり哀しそうに
涙を流していただけだった
月のひかりですら届かずにいた
君の伝言だけを遠い雨音のなかへ
運んでいた夜空

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