鯨の民/るるりら
 
まぶたを 閉じれば 海は すぐそこ
関門海峡の潮の音

あっちのほうが長門そどな
長門には 鯨さんのお墓があるそどな
おおけな鯨のちいさな墓に 南無阿弥陀仏を奉じると
波をみな飲み込んできた鯨さんの子守唄が聞こえるそ

どんな悲しいことがあっても
自分がいけんと おもうことを しちゃあいけん
鯨さんは とても多くの人を助けたから
誉れうけて お浄土にいきんさる

おおけな鯨さんも
お浄土に いきんさる
ちいさな婆さんも
いきんさる


婆ちゃんの墓は 下関の高台に
あの場所へ 
まぶたを閉じれば いつも還れる
あの時間ごとに何度もかわる潮の流れ
ひとり眠れない夜も
忙殺する時間の ふとした合間にも
あの 海の匂い 
たまに うたたねのとき
鯨の鳴き声だけが聞こえる

鯨は
私の底の 深い うぬりの中にいて
違う時間を泳いでる



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