初対面のふり/深水遊脚
これが一番理にかなったやり方だと思う。余計な言葉も気取りもいらない。今日それなりにかけた手間は全部自分のため。相手の人には自由に感じてもらえばよかった。5時20分、鶏を覆っていたアルミホイルを外した。シュトーレンを薄く切ってお皿に並べ、珈琲を淹れることにした。手挽きのミルで深煎りの珈琲豆を挽き、サーバーの上にセットしたドリッパーとフィルターの上に乗せる。沸き上がったお湯を少しさまして注ぎ、珈琲粉を静かに湿らせる。鼻を近づけたときの香りがホワイトラムに似てきたら、粉の中心から周辺へと、「の」の字を描くように静かに注ぐ。最初の注湯で粉がドームのように膨らんだ。お湯があまり減らないうちにこまめに足し、4
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