初対面のふり/深水遊脚
理はあらかた片付いた。テーブルについてからの郁子は間を置かずに口を動かしていたように思う。3杯目のスパークリングワインを求めてきたとき、さすがにこの後の仕事が心配で止めた。代わりに珈琲を彼女に1杯淹れた。珈琲豆の入手先と雑味を出さない淹れかた、今日出した料理の作り方の話になると彼女は熱心に耳を傾けた。そうこうしているうちにお店から電話がかかってきた。
慣れた感じで服を着た彼女に合わせて僕もジーンズとニットを着た。「またね」とも「さよなら」とも言わず、「今日はありがとう」と伝えた。別れ際に彼女がくれたフレンチ・キスの余韻にしばらく浸っていた。
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