鳩を蹴る/深水遊脚
 
珈琲の混ざった粘膜に唾液が滲みる
先刻の鳩の血液も蹴り足から鼻腔を貫いたか
公園で撒いたパンにありついた鳩を執拗に追い回していた
追手の鳩を蹴ったのは気紛れ
砂糖のない珈琲では消えない後味

書店の棚に並ぶ詩集に身勝手な郷愁を覚えて
猫背で立ち読みをする
他所で見かけないものに出会えた頬の綻びを隠して
ひとつを選ばなければならないという出所不明の使命感で
斜め読みで順位をつける私は私に蹴られる鳩

鈍痛に耐えながら今月暮らせるだけのお金を残して
手に入れたものを奪われないように抱え持つ
魂を読み啜り尽くして落ち着いた頃
傷は癒えてまた蹴る相手を探す

   グループ"コーヒー・アンソロジー"
   Point(10)