特別のこと/はるな
んそのように特別なものの特別たるゆえんは、それがもうここには無いということが大きいからだ。もうここにはなくて、それでも愛しいもの。望んでも手には入らないのに、もう忘れてしまえばいいよとどんなに念じても忘れ得ないもの。わたしの特別な思い出なら、いつもかなしい。
淀んでいないで、ここにある生活を守らなければならない、と、いつも思う。考えるのだ。大事にすべきものを、きちんと捕まえていること。大事にし続けるということ。あまり過去に引き戻されないように、注意して、いまある時間をただそのものとしてすごせるように。
でもそのときには、どんな覚悟もおよそ役にはたたない。
季節がゆくのも雨がふるのも、ゆれる洗濯物、夕食の匂い、煙草の煙のゆくえも、それは今ここにあるものなのだよと、どんなに強くわかっていても、転がるような空白のなかには、かなしみを孕んだ「特別なこと」を見出してしまう。
それに抗うことが正しいのかどうかわからない。でもここで生活をしていくには、それらに抗うことはどうしても重要で必要なことだと感じている。
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