結核療養所(サナトリウム)/……とある蛙
 

母さんの涙袋に冷水を入れ

僕はいつでも冷血漢で
母さんの涙袋に冷水を入れ

母さんの最初の思い出は
木造の白い病室の
ベットの脇で怖々と
親父の腰の後ろから
そっと覗いた母さんの顔

青白いお顔でありました。
疲れたお顔でありました。
それでも母さんは満面の笑みを浮かべて
手招きし、わたしの名前を呼ぶのでした。

その話し声はお優しく
おいでおいでと手招きし、
それでもわたしはこわがり屋の冷血漢で

遠い千葉のサナトリウム

かぁさんの涙袋に懸命に
せっせ せっせ と
冷水を入れるのでした。
せっせ せっせ と
せっせ せっせ と

ごめんね かぁさん
僕はうまく謝れなかった
謝らないで
さよなら してしまった。
   グループ"子ども時代"
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