結核療養所(サナトリウム)/……とある蛙
れ
母さんの涙袋に冷水を入れ
僕はいつでも冷血漢で
母さんの涙袋に冷水を入れ
母さんの最初の思い出は
木造の白い病室の
ベットの脇で怖々と
親父の腰の後ろから
そっと覗いた母さんの顔
青白いお顔でありました。
疲れたお顔でありました。
それでも母さんは満面の笑みを浮かべて
手招きし、わたしの名前を呼ぶのでした。
その話し声はお優しく
おいでおいでと手招きし、
それでもわたしはこわがり屋の冷血漢で
遠い千葉のサナトリウム
かぁさんの涙袋に懸命に
せっせ せっせ と
冷水を入れるのでした。
せっせ せっせ と
せっせ せっせ と
ごめんね かぁさん
僕はうまく謝れなかった
謝らないで
さよなら してしまった。
前 次 グループ"子ども時代"
編 削 Point(10)